Museum Studies
医療機器の発達で見過ごされる「医師の本当のスキル」開発訓練の為に、博物館や美術館に出かけて、芸術作品に描かれた人物の健康状態を“診察”する「Museum Studies」(http://magazine.hms.harvard.edu/art-medicine/museum-studies)というユニークな教育プログラムが、ハーバード大学医学部で実施され注目を集めている。
現在世界の最先端の病院では、集中治療室にある患者管理用モニターは全てデジタル化され、医師はどこに居てもそれを受信できるようになっているそうだ。手術はロボット化が進み、実際に患者に触れないでも行なえるようにすらなろうとしている。またニューヨークの癌センターでは、IBMの人工知能ワトソンを活用して「医療診断」が行われている。これは60万件以上の医療報告書、150万件以上の患者記録や臨床試験記録、200万ページに及ぶ医学雑誌などを瞬時に分析し、患者個人の症状、特に遺伝子情報や薬歴などに照らし、個々の患者に合わせた最良の治療計画を作るものだ。その結果、どんな優秀な医師の診断よりも細かい情報を、新米の医師でも入手できるようになっている。しかしこうした医療情報に慣れてしまった医師たちには自分の五感を使って患者の状態を診るという基本的能力が失われつつあるのではないか、という疑問も出始めているようだ。
「Museum Studies」は、その様なハイテク化する医療現場で、医師の診察技量を機器側から人間側に取り戻そうとする試みだ。実際に教材として使われているのは、盛期ルネサンスのミケランジェロの「アダムの創造」等だそうだ。これらの絵画は脳の正確な解剖を表している事で有名だが、当時の芸術作品には人物が抱える病気や解剖学的メッセージが忠実に表されているようだ。
果たしてこれら教育現場での試みは、医療機器の急激な進歩で逆に動揺する医療の質を高めることになるのだろうか?少なくとも西洋医学最先端の教育の場で、医師が自分の感覚を使って患者の状態を診る手法が見直されている事は画期的だ。デジタル情報の裏を読む訓練だ。
一方日本にも古くから医療に限らず“見立て”という独特の文化が根付いている。“見立て”とは、「ある物の様子からそれとは別のものの様子を見て取る」こと。 目の前で起こっている事の背後に透けて見えるもう一つの真実を見なければならないことを教えている。
最近トランプ次期大統領のツイッターに振り回される世界の巨大企業経営者が多い。もう少し落ち着いてトランプ時代の米国を"見立て"て行くことも大切だろう。
| 17.01.13