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偽装満足

今もっとも注目を集めているドラマは、TBSの『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/)だ。コミカルなタッチの恋愛ドラマで、主演の新垣結衣演じる自信がない女子「森山みくり」の愛らしさに心を奪われる人が続出。星野源演じる自称プロ独身「津崎平匡」の予想外の行動にはネット上でも盛り上がっているようだ。
第7話で「津崎平匡」の言葉に「森山みくり」が妄想する場面の胸キュン感は、「顔を合わせて素顔に触れているうちにいつの間にか恋に落ちる」と言う誰もが知っているシナリオなのに、なぜか引き込まれてしまう。この展開は『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』など歴史的名作映画にも見られる王道の手法で、“恋愛不要いきなり結婚族”を背景に、「偽装恋愛」フォーマットが今も有効なことを示している。
一方若者の消費離れを分析した本、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントの堀好伸著『若者はなぜモノを買わないのか「シミュレーション消費」という落とし穴』(青春出版社)も興味深い。若者がスマホで欲しい物を調べるうちに満足して買う気を無くしてしまう、というのが「シミュレーション消費」だそうだが、この「シミュレーション消費」と「偽装恋愛」には通じるところがありそうだ。
今の若者たちは仲間とのコミュニケーションも情報収集もスマホで事足りてしまっている。実際に商品に触れることなくスマホの中でバーチャル体験だけで購入に至るので、「本当に必要なのか?」と自問自答しているうちに、結果「買わなくてもいい」となることもあるようだ。良くできた「偽装恋愛」をドラマの中で体験しているうちに、面倒くさい本当の恋愛は必要なくなり、時にはバーチャルで満足してしまう。これらの現象には「偽装満足」という共通性がある。
日常生活でのストレスが多く漠然とした閉塞感が漂う現代社会で、最終的に求められているのは「ぼんやりとした幸福感」で、複雑なリアリティーがある現実の世界の幸福ではないのかも知れない。「偽装満足」現象が頻発すると、映画「トータルリコール」で描かれた仮想現実を求める世界がひたひたと近づいて来ているのをように感じる。
人類にとって必要なのは、最後には脳細胞とシナプスへの刺激だけ?かも知れない。

| 16.12.02

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