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アラハン

今年は「アラハン」の本がよく売れたそうだ。「アラハン」とは「アラウンド・ハンドレッド」、つまり100歳前後の高齢者のことだ。東京都内の大型書店にはアラハン作家のコーナーが特設され、読者は40代以上の女性が多いそうだ。彼女たちにとって歳を重ねた先人の言葉が道しるべとなっているらしい。
103歳の美術家・篠田桃紅は50万部のヒットとなった著書『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』(幻冬舎)で、「いつ死んでもいいなんて嘘。生きている限り人生は未完成」、「意に染まないことはしない。無理もしない」と書く。また94歳の瀬戸内寂聴が若さと長寿の秘密を綴った、『老いも病も受け入れよう』(新潮社)は、5月31日の発売から1週間で4刷の勢いだったという。そして来年1月に90歳を迎える詩人で弁護士の中村稔は、今年になって「萩原朔太郎論」などほぼ2、3カ月おきに単行本を出し、西鶴文学という新たなジャンルや書き下ろし詩集という今までにない形態への挑戦を続けるなど、卒寿とは思えない精力的な執筆活動を続けている。
今年9月の敬老の日に厚労省が発表したプレスリリースhttp://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12304250-Roukenkyoku-Koureishashienka/0000136883.pdfによると、日本の100歳以上は6万5692人だそうだ。元気な100歳が増えていることを目の当たりにすることで、100歳まで生きることがイメージでき、スーパー高齢化社会の到来が予感される。
そうかと思うと60歳で定年を迎えてしまう日本のサラリーマンは現在6000万人、しかし働いても税金を納めなくていい低所得者も4500万人にのぼるといわれている。生活保護受給者から今話題の配偶者控除対象者、年金受給者と様々であるが、超高齢化社会に60歳前後で定年するという考え方は果たしてそぐうのだろうか?体力の続く限り自然に働けるような社会を創ることが人生の達成感につながり、かつ税収も上がるということではないのだろうか?
日本がモノづくりの国を自負するならば、コスト削減だけで生産工場を他国に移してはいけないのかもしれない。自由貿易でなければ保護主義だと決めつけるのは容易だが、60歳台、70歳台、80歳台のそれぞれの労働に対する“美学”を大切にすることも重要だろう。
トランプ次期大統領の提唱する「アメリカ・ファースト」も、言葉を変えれば「まずは自国民の生活を確立せよ」ということだろう。「アラハン」になるまで、ごく自然に自分の出来る仕事をする社会こそ、日本の目指す共同体社会なのではないだろうか?

| 16.12.16

オーサグラフ

2016年度グッドデザイン大賞に建築家・鳴川肇氏らによる「オーサグラフ世界地図」(http://www.authagraph.com/)が選ばれた。
選考の理由として、「今までは世界地図図法の一つであるメルカトル図法にとらわれていた。オーサグラフにより新しい世界地理のとらえ方ができるようになる」、「世界地図は価値観の根底を作るもの。これまでのメルカトル地図は、16世紀の大航海時代に作られたもので、北極・南極に近づくほど面積が巨大になり、世界を把握するのに大きな誤解を与えてきた。世界を正確に捉えられる新しい地図を作るという発想そのものがデザインだと思った」などが挙げられている。
「オーサグラフ世界地図」は地球の表面積を96等分し、それらの面積比を保ちながら正四面体に変換して、陸地の面積比と形状をほぼ正確に表記している。authalic(面積が等しい)graph(図)という名の通り画期的なものだ。
これまで学校の教科書やGoogleマップで採用されてきた見慣れた地図の多くは、メルカトル図法によって描かれたものだ。緯線をすべて赤道と同じ長さにしているので、どうしても「ゆがみ」が生じて極地に近づくほど事実との違いが増大する。たとえばグリーンランドという島は確かに大きいが実際の17倍の大きさに描かれているし、日本は実はそんなに小さくなく、ロシアはそこまで大きくない。言われてみれば当たり前に思うことだが、これまですっかり騙されてしまっていたのだ。
地理は社会の経済的、政治的展開に劇的なインパクトをもたらす。特に国土の大小は地政学の重要要因で、国土が小さいと国際社会で大きな影響力を持てないと考えられることが多い。極東の小さな島国と思われている日本が、海域まで入れればなんと世界6位の大きさであり、かつ中国に越されたとは言えGDP世界第3位の大国であることを、日本人はもっと自覚すべきだろう。
米国、中国、ロシアの三超大国に世界で唯一隣接しているとも言える日本は米国の属国ではなく、大国としての責任を果たす時機が到来している。頭の中で16世紀に作られた歪んだ地図がベースになっているのでは、外交にすら影響を与えかねない。ロシアはそんなに大きな国ではない。
12月7日は75年間真珠湾攻撃の日として米国民に記憶されて来たが、来年からは12月6日にソフトバンクの孫社長がトランプ次期大統領に対等なビジネスを申し入れた日の翌日として記憶されることになるのでは?500億ドル投資の結果が楽しみだ。

| 16.12.09

偽装満足

今もっとも注目を集めているドラマは、TBSの『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/)だ。コミカルなタッチの恋愛ドラマで、主演の新垣結衣演じる自信がない女子「森山みくり」の愛らしさに心を奪われる人が続出。星野源演じる自称プロ独身「津崎平匡」の予想外の行動にはネット上でも盛り上がっているようだ。
第7話で「津崎平匡」の言葉に「森山みくり」が妄想する場面の胸キュン感は、「顔を合わせて素顔に触れているうちにいつの間にか恋に落ちる」と言う誰もが知っているシナリオなのに、なぜか引き込まれてしまう。この展開は『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』など歴史的名作映画にも見られる王道の手法で、“恋愛不要いきなり結婚族”を背景に、「偽装恋愛」フォーマットが今も有効なことを示している。
一方若者の消費離れを分析した本、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントの堀好伸著『若者はなぜモノを買わないのか「シミュレーション消費」という落とし穴』(青春出版社)も興味深い。若者がスマホで欲しい物を調べるうちに満足して買う気を無くしてしまう、というのが「シミュレーション消費」だそうだが、この「シミュレーション消費」と「偽装恋愛」には通じるところがありそうだ。
今の若者たちは仲間とのコミュニケーションも情報収集もスマホで事足りてしまっている。実際に商品に触れることなくスマホの中でバーチャル体験だけで購入に至るので、「本当に必要なのか?」と自問自答しているうちに、結果「買わなくてもいい」となることもあるようだ。良くできた「偽装恋愛」をドラマの中で体験しているうちに、面倒くさい本当の恋愛は必要なくなり、時にはバーチャルで満足してしまう。これらの現象には「偽装満足」という共通性がある。
日常生活でのストレスが多く漠然とした閉塞感が漂う現代社会で、最終的に求められているのは「ぼんやりとした幸福感」で、複雑なリアリティーがある現実の世界の幸福ではないのかも知れない。「偽装満足」現象が頻発すると、映画「トータルリコール」で描かれた仮想現実を求める世界がひたひたと近づいて来ているのをように感じる。
人類にとって必要なのは、最後には脳細胞とシナプスへの刺激だけ?かも知れない。

| 16.12.02

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