国家元首
長年にわたりタイの政治・社会の「安定の要」とされてきたプミポン国王(ラーマ9世)が10月13日に亡くなり、タイ政府は1年間の服喪期間を発表して、国民に30日間の黒か白の着用を求めた。事実バンコク市内はほぼすべてのタイ人が喪服を着ているという異様な現象が起きている。
タイは憲法で「国王を元首とする民主主義制度」を統治原則とし、「主権は国民に属する。元首である国王は、国会、内閣および裁判所を通じてその主権を行使する」として、約6800万人の国民と1人の国王が主権を共有する「君民共同統治」と呼ばれる体制をしいている。国王は不可侵で、宗教の守護者であり、国軍を統帥する。プミポン国王は実質的な権力を持ち、タイ国民はそれを尊敬を持って受け入れてきたのだ。
日本では逆に、天皇の生前退位が議論されているが、天皇は既に日本国憲法において国家の象徴となっているので国政と直接的な関係はない。
翻って国家元首が大統領で、世界の民主主義をリードして来た米国では、大統領制の終焉を感じさせる低レベルで尊敬されない大統領選が行われている。
アジアにおいて立憲君主制まで含めて王政が続いているのは、日本とタイ王国に加え、カンボジア王国、ブータン王国、ブルネイ・ダルサラーム国、マレーシアのわずか6カ国だけになってしまった。1912年に清朝が崩壊するまでほぼすべてのアジアの国が王国であったことを考えると、この100年間に主権在民の考え方が急速に浸透し、民主主義が急速に広まったことを意味している。
国家元首とは何か?と考えさせられる中、超法規的暴力的言動で世界から危険視されながらも国内では圧倒的な人気を持つフィリピンのドゥテルテ大統領が来日した。と思っていたら、支持率が10%まで落ちた韓国の朴大統領の異常な日常が伝えられている。その間、ミャンマーからは夫の国籍問題で大統領にはなれないアウン・サン・スー・チーが、国家最高顧問(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/data.html#section2)という不思議なタイトルで国家元首以上の権力を持つ立場で来日している。
民主主義と王政が相互にハレーションを起こすことは想定の範囲内だが、その解決策として考え出された大統領制までも極度の制度疲労を起こしているようだ。
実際の政治は議会と役人によって執り行われるので、国民が最も安心できるポスト大統領制を突き詰めると、これまた最善の解を導き出す将棋ソフトではないが、人工知能(AI)ということになってしまうのだろうか?
| 16.11.04