縄文奇想
タイム誌が選ぶ毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」に、2016年は日本から唯一現代美術家の草間彌生が選出された。推薦者でファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスは、「アートの世界で本当の意味で革命的なことを成し遂げてきた」とその功績を称えている。彼女は幼少のころから頭の中で水玉が増殖する強迫的な幻覚に苦しんできた、その精神的恐怖が創作活動の原動力となっているという。弱さを遊び心として表現する執拗だけれど愛らしい?ところが、幅広く大衆に受け入れられる草間彌生の魅力なのだろうか。
1990年代後半から日本の奇想美術が再び大衆的な人気を集めるようになった。伊藤若冲の爆発的な人気を筆頭に、長沢蘆雪、歌川国芳といった画家、長谷川等伯、河鍋狂斎といった江戸の絵師たち、そして阿修羅像をはじめとする仏像への熱狂など、その人気は衰えを知らない。
2000年に京都国立博物館で開催された「没後200年若冲展」は最初ガラガラだったが、若冲を「ワカオキ」と呼ぶネット上の投稿に若い世代が呼応して評判が広まり、最後は押すな押すなの状態になったそうだ。この世代は日本美術を未知のものとして新鮮な気持ちで受け止めて、意識的に見ようとする。それがネットを通じて共有され爆発的に口コミが発生し、世代を超えた「日本美術ブーム」が起きているのだ。
著書「驚くべき日本美術」(http://www.shueisha-int.co.jp/archives/3517)で山下祐二と橋本麻里が言っているように、日本の美術には、「縄文―東照宮―永徳―明治工芸」と「弥生―桂離宮―利休―柳宗悦」という2つの流れがあるらしい。日光東照宮に代表される「かざる」美は、桂離宮に代表される外来の「ワビ・サビ」の美に対してこれまで低く見られてきた。しかし日本美術の神髄に古来きらびやかな「かざり」の要素があることを気づかせてくれたのが、若冲をはじめとする奇想の画家たちだった。現代の作家である草間彌生や村上隆らにも通じるものだ。
奇しくも4月22日から東京都美術館で「生誕300年記念 若冲展」が開催されている。東京では初となる「動植綵絵」30幅(宮内庁)と「釈迦三尊像」3幅(相国寺)の合計33幅が一堂に会しており、凄い人気だ。
平城・平安京の天皇家による外来文化の侵入以前から1万年に渡って日本に脈々と流れる縄文奇想文化は、2000年の時を超えて“奇”が“正”になりつつあるのだろう。
| 16.05.06