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うさぎ島
瀬戸内海に浮かぶ周囲4.3kmの小さなリゾートアイランド、広島県大久野島。 定住者のいない小さな島にもかかわらず、「うさぎ島」として世界中から注目されている。
元々は地元の小学校で飼っていた8羽のウサギが放されたことから繁殖が始まったというが、ある外国人がうさぎだらけの島があると動画サイトにアップしたことから火がつき、それを見て訪れた人がさらにSNSで拡散。ここ10年ほどで一気に認知度が高まったのだ。今やなんと推定700羽以上の野うさぎが生息しており、観光客はそれぞれ野菜やペレット飼料といった、うさぎが好みそうな餌を持って船に乗り、現在年間約20万人が島を訪れると言う。
うさぎは最近ペットとしての人気も急上昇、全国各地でうさぎ専門店がオープンし、ねこカフェに続きうさぎカフェも続々オープンするなどファンが増加する中、「うさぎ島」も人気を集めている。
しかし大久野島は、核廃絶の象徴である広島にあって、戦時中は毒ガスの製造工場が建てられ、その機密性の高さにより「地図から消された島」になったという暗い歴史があることを知る人は少ない。うさぎ達が日がな一日のんびり暮らす平和な風景が広がり訪れる人々を癒しているうさぎ島だが、かつての毒ガス工場や研究所、貯蔵庫が今は廃墟として残され、毒ガス資料館では第二次世界大戦当時使われていた防護服や実験の資料が展示されている。イペリットガス、ルイサイトガスなど国際条約違反である毒ガスが製造されていたのだ。ここが植物は枯れて動物の生息も不可能ではないかと言われた島だったことを忘れてはいけない。この島をはじめ瀬戸内海の島々は、かつて戦争に深く関わったところが多いのも事実だ。
オバマ米大統領は27日、安倍晋三首相と共に、現職米国大統領として初めて被爆地・広島 を訪問する。原爆を落とされた悲劇の場所という論調で語られ、核廃絶への機運の高まりが期待されるが、同時に軍事都市として毒ガスを作る拠点であったことも忘れないようにしたいものだ。
日米両国民が戦争という異常事態における両国の負の遺産を知るとともに、広島にはそれらを越えて今「うさぎ島」が在ることを同時に、日本人に対しても発信していくべきだろう。
| 16.05.27
タトゥ-温泉
三菱地所が3月25日からYouTubeに公開した動画「スノーモンキー東京へ行く」(https://www.youtube.com/watch?v=sSWbHAHdi5g)の再生回数が66万回を超えた。
同社が東京・大手町に建設した再開発ビル「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」の敷地内で温泉が湧いたことにちなんで制作したもので、内容は山奥の雪国から1匹の猿が桶とタオルを手に列車を乗り継ぎ、大都会東京・大手町の天然温泉を目指して旅するという心温まるストーリーだ。
日本の冬の風物詩で、最近海外メディアでも紹介されて認知度を上げた「スノーモンキー」が、大手町温泉に入りに来たというわけだ。
エリア内には2016年7月20日に「塔の日本旅館」をコンセプトとした地上18階建ての「星のや東京」も開業予定だ。客室数84室、平均客室単価8万~12万円の高級旅館となる見込みだが、アマン東京をコンペティターとして、大手町から温泉施設のある「和のおもてなし」を世界に発信していくという。
星野リゾートはそれに先立ち4月から全国12か所にある再生旅館ブランド「界」で、入浴時に小さなタトゥーを隠すためのシールを配布する制度を本格導入した。シールは縦8センチ横10センチほどの大きさで最大2枚まで使用でき、肌の色に応じて4種類。2枚で160平方センチメートルなので、「160平方センチからの温泉文化変革」と呼んでいるそうだ。
昨年観光庁が全国の温浴施設約3700軒に行った実態調査によると、約31%が「入れ墨・タトゥー」を許可、56%が拒否、13%がシールで隠すなどの条件付き許可という結果だった。「入れ墨・タトゥー」は長らく反社会的な人々の象徴とされ、温浴施設の多くは「入れ墨、タトゥーのある人の入浴お断り」としてきた。だが海外ではファッションや文化、或いは軍事的な理由で入れ墨をするケースが多々ある。外国人観光客の多くが観光目的に温泉を挙げていることもあって、異文化と風紀維持?のはざまで“おもてなし”を模索する取り組みが続いている。
一方、入れ墨・タトゥーがあっても利用可能な温泉や銭湯、サウナなどの情報共有サイト「タトゥースポット」(http://tattoo-spot.jp/)には、現在全国のタトゥーユーザーから1300件以上の情報が投稿されているそうだ。
古来日本の文化でもあるタトゥーだが、明治時代には西洋人に遠慮して公共の場での露出を禁じられた。そして今度はまた西洋人に遠慮して解禁しようとしている。
そこには自分たちで自分達の文化の価値を評価できない情けない日本の姿が見え隠れする。
| 16.05.20
外国人居住
法務省入国管理局の統計によると、2015年の外国人入国者数は1974万人、在留外国人数(居住者)は公式には223万2,189人で、そのうち約4割の100万人ほどが東京圏に住んでいるとのこと。
リクルートのSUUMO『なんでもランキング Vol.61都内在住の外国人に聞いた「住みたい街はどこ?」』2013(http://suumo.jp/article/nandemorank/rank/hitori_kyujitsu/3156/)によると、外国人居住者の住みたい街の第1位は新宿で、2位に渋谷、3位秋葉原、4位品川、5位六本木、6位浅草だそうだ。理由として、「オフィスに近い」「繁華街が近い」ことが挙げられている。外国人居住者にとっては日本の繁華街も安全に映るようだ。
しかし一方、スイスのIMD(International Institute for Management Development)による世界競争力年報(IMD World Competitiveness Year Book 2014)によれば、『海外高度人材にとって魅力的な国』ランキングで、日本は60ヵ国中48位にとどまっている。更に『企業幹部の国際経験の豊かさ』では、実に60ヵ国中59位だ。
最近日本のインバウンド観光客が劇的に増えたと政府は言うが、総人口1億2千万人から考えるとまだまだ低い。人口対比100%を超えている英国のインバウンド観光客数は75百万人、フランスは8千万人だ。日本は人口比50%として6千万人いてもおかしくはないので興奮するような話ではない。
一方インバウンド対応をGDPに貢献するレベルまで産業化するより、外国人居住者を増やす方が効果的なのは明らかだ。実質延べ滞在日数が格段に増える。ところが居住者となると現状の220万人は国際的に更にとても少ないのが実情だ。日本の総人口に占める在留外国人の割合は約1.8%、せめてタイ並の5%位あっても良いだろう。しかし、5%となると600万人、現状の220万人から更に380万人の生活サポートが必要になる。平均家族数3人とすると、必要部屋数は100万室を超え、計算上では観光客対応の約5倍、200室換算のアコモデーション施設で約5000物件を要する。政府の想定をはるかに超える数だ。
こうなると民泊でホテル不足を補ってお茶を濁している場合ではない。政府はオリンピックへ向けて「新観光立国論」の受け売りをただ謳うのではなく、G7の一員として人口の5%ぐらいの外国人居住者を常時受け入れる基本的覚悟を示すべきであろう。これは移民問題とは全く別次元の問題だ。
都知事も自分の別荘ライフを充実させる前に、日常的グローバルアコモデーションが圧倒的に不足している東京の現状を直視しては如何だろうか?
日本にとって大きなアップサイドがあると思うのだが。
| 16.05.13
縄文奇想
タイム誌が選ぶ毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」に、2016年は日本から唯一現代美術家の草間彌生が選出された。推薦者でファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスは、「アートの世界で本当の意味で革命的なことを成し遂げてきた」とその功績を称えている。彼女は幼少のころから頭の中で水玉が増殖する強迫的な幻覚に苦しんできた、その精神的恐怖が創作活動の原動力となっているという。弱さを遊び心として表現する執拗だけれど愛らしい?ところが、幅広く大衆に受け入れられる草間彌生の魅力なのだろうか。
1990年代後半から日本の奇想美術が再び大衆的な人気を集めるようになった。伊藤若冲の爆発的な人気を筆頭に、長沢蘆雪、歌川国芳といった画家、長谷川等伯、河鍋狂斎といった江戸の絵師たち、そして阿修羅像をはじめとする仏像への熱狂など、その人気は衰えを知らない。
2000年に京都国立博物館で開催された「没後200年若冲展」は最初ガラガラだったが、若冲を「ワカオキ」と呼ぶネット上の投稿に若い世代が呼応して評判が広まり、最後は押すな押すなの状態になったそうだ。この世代は日本美術を未知のものとして新鮮な気持ちで受け止めて、意識的に見ようとする。それがネットを通じて共有され爆発的に口コミが発生し、世代を超えた「日本美術ブーム」が起きているのだ。
著書「驚くべき日本美術」(http://www.shueisha-int.co.jp/archives/3517)で山下祐二と橋本麻里が言っているように、日本の美術には、「縄文―東照宮―永徳―明治工芸」と「弥生―桂離宮―利休―柳宗悦」という2つの流れがあるらしい。日光東照宮に代表される「かざる」美は、桂離宮に代表される外来の「ワビ・サビ」の美に対してこれまで低く見られてきた。しかし日本美術の神髄に古来きらびやかな「かざり」の要素があることを気づかせてくれたのが、若冲をはじめとする奇想の画家たちだった。現代の作家である草間彌生や村上隆らにも通じるものだ。
奇しくも4月22日から東京都美術館で「生誕300年記念 若冲展」が開催されている。東京では初となる「動植綵絵」30幅(宮内庁)と「釈迦三尊像」3幅(相国寺)の合計33幅が一堂に会しており、凄い人気だ。
平城・平安京の天皇家による外来文化の侵入以前から1万年に渡って日本に脈々と流れる縄文奇想文化は、2000年の時を超えて“奇”が“正”になりつつあるのだろう。
| 16.05.06