観光立国限界値
政府は、2015年1年間に訪日外国人客数がほぼ2000万人を達成したことを受け、「2020年までに年間2000万人に」としていた目標を、3000万人に修正表明した。果たしてこの数字は少ないのか多いのか?
確かに数値的には2016年から毎年15%ずつ増えていけば2020年に3000万人達成は可能であり、近年の伸び率から見るともっと多くしろと言う意見も分からないではない。しかし、「年3000万人」は日米地位協定下では限界との声も聞こえて来る。それはどういう意味なのか?
世界ではフランスの8400万人超を筆頭に、米国、スペイン、 中国、イタリア、トルコ、ドイツ、英国がインバウンド観光客3000万人超である。しかし、英国以外は陸続きで車でのインバウンド数が大きく貢献している。日本の場合は、インバウンド客数のほぼ全てを航空機に頼らなければならない。
そう考えると、飛行機だけで2000万人はそんなに少ない数ではない。3000万人超達成の為に、先ずは訪日外国人の過半数が利用する成田・羽田空港の年間発着枠を今後数年で約75万回まで拡大する予定だそうだが、2013年時点で約68万回である事からすると75万回はほぼ限界だろう。しかも、3000万人超の訪日外国人客を受け入れるには75万回でも不十分だと指摘されている。
一方日本の場合、もっと根本的な問題を解決する必要があるようだ。羽田空港や成田空港を利用する飛行機が、大回りに旋回して着陸していることに気づいている人も多いと思う。最短でアプローチ出来ない理由があるのだ。関東中心部の上空は未だに米軍の管理下に置かれ、横田・厚木基地がその支配権を握っている現実がある。沖縄を含め日本の地上は返還されたが、東京の空は未だに返還されていないという事実認識無しに、ただ浮かれてインバウンド観光客数を英国並みにとは言えないだろう。
他国の軍隊が首都圏の広大な空域を占有し続け、民間航空機が自由に飛べない現実。安保条約に基づき制定されている憲法に優先する「日米地位協定」という見えない壁が、インバウンド3000万人達成を阻むだろう現実がそこに在る。冷戦終了後、不平等条約である地位協定を破棄したドイツ、イタリアと、未だに米国と対等外交ができない日本の差は何なのだろうか?
新観光立国推進は、思わぬところで日本の地政学的弱点を露呈させることになりそうだ。基地問題は沖縄固有のものではなく、東京、いや日本全体の問題なのだ。
| 16.01.15