部品魂?
阿部寛主演のTBS系日曜劇場『下町ロケット』(http://www.tbs.co.jp/shitamachi_rocket/)が好調なスタートを切っている。原作は、社会現象とまで言われた『半沢直樹』で知られる作家・池井戸潤の第145回直木賞受賞の同名小説。父が経営していた下町の工場を継いだ主人公の佃航平が、仲間とともに困難を乗り越えロケットエンジン開発の夢を追う姿が描かれている。
中小企業が大企業に“水素エンジンのバルブシステム”を部品供給してロケットを飛ばすロマンが主軸になっており、日本の製造業の高度な技術力を支えているのが、まさに中小企業であることを見せつけるドラマだ。産業競争力の源泉であり日本のものづくりを支えてきた町工場の誠実さや勤勉さを描く一方で、市場経済の現代、大企業において数字を追って稼ぐ力ばかりが求められていることを批判している。この対比が視聴者の共感を得ているのだろう。
当初、著者は町工場がロケットを作る話を考えていたそうだが、数社に取材したところ「そんなの無理無理」と言われ、ロケットエンジンのバルブシステムを作る話に練り直したらしい。大型ロケットは部品レベルまで勘定すると、数十万~百万点に達し、自動車をはるかに上回る部品数になるそうだ。特に液体水素を燃料にする純国産大型ロケットにとって、水素をコントロールする多種多様なバルブシステムは目立たないが、ロケット全体のキモといっていい。
そんな最中日本の町工場を喜ばせるニュースが届いた。環太平洋経済連携協定(TPP)で、米国が日本製の自動車部品に課す関税を協定発効から15年で全廃することに合意したのだ。エンジンやブレーキ、トランスミッションなど400弱の自動車の中枢部品の87.4%にあたる品目の関税は即時撤廃の対象となった。米国でも作れるようなシャシーやターボチャージャーなど比較的単純な部品は逆に25年目まで撤廃期間が延びた。しかし、米国への自動車部品の輸出額約2兆円に対し、単純計算で約400億円の関税コストが浮くだけだ。これがどういう事か慎重に考える必要がある。
うがった見方をすると、フォルクス・ワーゲンやタカタの例をみるまでもなく、自動車産業は今後ますます訴訟リスクが高まる。その危険な中枢技術をたった400億円で日本に作らせようとしているとも言える。
物づくりに集中して世界のパワーポリティックスを見逃すと、とんでもない落とし穴にはまる危険があることも考える必要があるだろう。
| 15.11.06