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春画(Shunga)

9月19日から永青文庫で開催されている『春画展』(http://www.eiseibunko.com/shunga/)が人気だ。
この展覧会のもとになったのは、2013年10月から翌年初めまでイギリスの大英博物館で開催された『Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art』(http://www.britishmuseum.org/whats_on/past_exhibitions/2013/shunga.aspx)である。日本では18歳未満は入館を禁止しているが、大英博物館でも「16歳未満は保護者同伴推奨」という異例の年齢制限を行った。しかし入場者数は予想を大幅に上回る8万7893人を記録し、「人類史上、最もきわどくて素敵」(英紙インディペンデント)、「啓示的」(英紙タイムズ)と称賛され、世界中のメディアから高い評価を受けた。日本での開催は20以上の美術館に断られ続け、やっと細川家に伝わる美術品を展示している永青文庫が引き受けたことで、開催前から高い期待が寄せられていたのだ。江戸文化の独創性と先進性を理解する旧大名、細川家ならではの判断だ。
大英博物館での入場者は約6割が女性だったというが、日本では中年女性のグループは意外に少ない。休日は大学生や20代、30代が半分を超し、平日はあらゆる世代の男女、同性のグループなどが来ているようだ。若者を中心にみんなが春画を「キャッキャッ」と笑いながら見る光景は、春画が「笑い絵」「わじるし」とも言われた江戸時代の、面白がって大勢で笑い合う楽しみ方を彷彿とさせる。
江戸時代の人々の性愛に対するおおらかさは魅力的だと、大英博物館展では女性からの人気が高かったと言われている。しかし、春画は単純な性の発露ではなく、背景にその時代への強い反逆のメッセージがあることも忘れてはならない。喜多川歌麿、葛飾北斎、安藤広重など、江戸時代を代表する人気絵師は総じて春画の傑作を描いている。自然な構図を無視した画面構成が必要で、それをまとめあげる卓越した画力が試される難しい画題なので、腕のたつ一流絵師が競うように名作を描いたのだ。また幕府禁制品となって、かえって高い技術を駆使し贅を尽くした作品が作られた為、品位とユーモアと性の豊かさを兼ね備えた一級のアート作品と呼べるものが数多く誕生したと言える。
ポピュリズムではない芸術性とメッセージ性を20館以上もの日本の美術館が理解しなかったのは誠に残念だ。ましてや、先進国の目を気にして独自性を失っている、今話題の明治新政府下で出来た東京国立博物館では、どうにもならないであろう。

| 15.10.30

野生鳥獣食

今年もまた10月1日から、ベッカーズで長野県産の鹿肉 を使った「信州ジビエ THE★鹿肉バーガー」(http://www.jefb.co.jp/beckers/menu/)の限定販売が始まった。ジビエはほとんど輸入している日本だが、2011年よりJR東日本グループが取り組む地域再発見プロジェクトの一環で、鳥獣被害対策として調達された長野県産鹿肉を活用したメニューが販売されており、ベッカーズでの限定バーガーの販売は今年で3 年目だ。
鹿の肉は、ヨーロッパなどではジビエの一つ、貴重な高級食材として人気がある。片や日本では、過剰な保護で野生鳥獣が増えすぎてしまい、食害でスギ、ヒノキ、ブナなどの樹皮や高山植物など森が枯れてきている。現在農作物の被害額は年間200億円を超え、就農意欲の低下や耕作放棄をもたらし、更なる野生鳥獣の住処の拡大に繋がっている。駆除される野生鳥獣は年間30万頭近くだが、そのほとんどが廃棄されているそうだ。
運動量が多いジビエは高たんぱく低カロリー、鉄分も多い。最近の赤身肉ブームが追い風となって、昨今女性を中心にジビエブームだ。料理人にとってもジビエは楽しいらしい。品質が一定している牛や豚に対し、ジビエはサイズも肉質も個体差が大きく、実際モノを見てどう料理すれば一番その良さが引き出せるかを考え、工夫する面白みがあるという。しかし市場が確立している牛や豚と違い、ジビエは流通経路が定まっていない。
そうした中、厚生労働省が昨年11月から、未整備だった野生動物の肉について衛生管理のガイドラインをつくった。狩猟から消費まで、衛生面での注意点や記録の作成保存、病気の見分け方などを定めている。狩猟したものを食肉処理する施設や流通経路が確立すれば、衛生管理の行き届かない肉が出回らないようになり、そこから、ジビエ料理への需要が高まり、狩猟活動が活発になり、農作物の被害も減少するという好循環が生まれると期待されている。
アメリカのNGO「 Friends of the Earth International 」(http://www.foei.org/)など6つの消費者・環境団体が、米国の大手ファストフードチェーン25社を対象に、メニューに使われている食肉の抗生物質の使用状況について調査したところ、大半が不合格。「米国の大手飲食チェーンのほとんどは、食肉への抗生剤使用に対する不安の高まりに実質的に対応できていない」と批判した。
このような記事を読むと、ジビエを食せる環境にある人はなるべく国産ジビエを食べるのも、TPP時代に大切なことだろう。

| 15.10.23

ジャパンウエイ

イングランドとウェールズで開催中の第8回ラグビーワールドカップにおいて、過去28年間の7大会で24戦して1勝しかできなかった日本代表が、3勝1敗という堂々たる成績を残した。
惜しくも8強入りは逃したが、特に初戦で優勝候補の1つであった南アフリカに逆転勝利したことは、いろいろな意味でラグビー界にセンセーションを巻き起こした。ティア2の日本が、ティア1の最強チームを下したことは、根強い人種差別が残るラグビー界を震撼させるに十分だった。
かつての白人政権時代、南アフリカでは「紳士のスポーツ」ラグビーをやるのは白人、「民衆のスポーツ」サッカーをやるのは黒人と決まっていた。しかし、アパルトヘイト撤廃の先頭に立ち同国初の黒人大統領になったネルソン・マンデラは、黒人と白人の融和を成し遂げる為に、アパルトヘイトの象徴であったラグビーを利用して1995年ラグビーワールドカップを自国で開催し、『ワン・チーム、ワン・カントリー』というスローガンの下、白、黒、ブラウン、いろんな肌色の男たちがニュージーランド代表との激闘の末優勝を遂げ、歴史は大きく動いたのだ。今回は、世界最強のニュージ―ランドを破った南アフリカを日本が更に破ったと言える。
ところで、1904年~1905年にかけて、日露戦争における日本海海戦での日本の勝利は、16世紀の大航海時代から続いていた「白人による世界支配」の時代に楔を打ち込み、世界史の重大な転換点となった。それまで欧米列強の草刈り場と化していたアジア・アフリカ諸国にとって、日本が「希望の星」になった時でもあった。世界の近代史における日本の役割「ジャパンウエイ」には常に欧米列強にアジアを代表して喰い込んで行く先進性がある。それはG7唯一の非欧米国である事でも示されている。そもそも日本は第一次世界大戦後のパリ講和会議で世界で最初に人種差別撤廃提案をした国であるが、英米などの反対によりかなわなかった経緯がある。
それにしても、ラグビーワールドカップ予選史上初の、3勝しても8強に入れなかった差別の壁は厚い。フタを開けると参加102カ国中、8強は全てティア1と呼ばれる大英帝国の連邦国を中心とした特別扱いの国で占められていた。予選グループを5カ国とする方法は、ティア1諸国を優位にする絶妙な仕掛けだ。同じ英国発祥のスポーツであるサッカーは、大衆から生まれただけにこの様な不合理なグループ分けは行わない。
そこまでして、白人優位を演出して、「ノブレス・オブリージュ」の精神はどこへ行ったのだろうか?

| 15.10.16

微生物上位

2015年のノーベル医学・生理学賞は、北里大特別栄誉教授の大村智氏(80)ら3氏に授与すると発表された。大村智氏は、微生物が作り出す有用な化合物を多数発見、医薬品などの開発につなげ、医療や科学研究の発展に大きく貢献した、その功績が評価された。
「微生物」が、私たちが生きていく上で、そして地球環境が守られていくために無くてはならない大切な存在だと知らしめた功績だ。自然界において微生物の担っている最も重要な役割(仕事)が『分解』であると意識させたことも面白い。
自然界で枯死した植物、動物の遺体、排泄物などは微生物の力によって分解され、最終的には二酸化炭素、水、無機物となる。微生物の働きがあるからこそ生態系は成り立っているし、微生物がいなければ有機物は分解せず、動植物の死骸がるいるいと地球上に堆積し、我々はその死骸の中で暮らすことになった筈だ。想像もできないことだ。
1グラムの土には1億もの微生物がいるそうだ。大村氏は70年代から各地で土を採取して微生物を分離・培養し、微生物が出す化学物質に有用なものがないか、薬をつくり出す菌もいるだろう、と年間3千もの菌をひたすら調べ続けて有用な化合物を多数発見してきた。大村氏は会見で「研究成果は微生物から力を借りただけ」と語っていたが、この謙虚さが世界を救うことに繋がったのだろう。
しかし、最近の「抗菌」、「除菌」ブームでは、微生物は「バイ菌」と言われて嫌われることが多くなった。実は身体も環境も食品も沢山の微生物によって支えられているのに、微生物なしに人間の生活が成り立たないことは意外に忘れがちだ。味噌や醤油、納豆といった日本人に身近な発酵食品にも微生物の役割は欠かせないが、実生活では“菌”に対する考え方に大きなズレが生じている。地球上に生命体が誕生するはるか以前から、地球環境が微生物たちの活動によって支えられてきたことを忘れてはならないだろう。
人間が居なくなっても地球は緑の星としてその美しさを保ち続けるが、地球から微生物が居なくなったら死骸の堆積する死の星となってしまうのだ。
大村教授の感動的に謙虚な姿は、自然界において微生物は人類よりも価値があり、上位に位置付けられていると知っていることから来るのだろう。

| 15.10.09

ロボット不倫

人が人工知能と恋に落ちる映画『Her』さながらの事象が現実に起こっている。
『Her』は2014年第86回アカデミー賞・脚本賞をはじめ計43部門の賞を総なめにした作品だ。手紙の代筆ライターであるセオドアが新型の人工知能OSを手に入れ、スマートフォンやPCにインストールする。実際の体はないものの、OS『サマンサ』の魅力的な声に次第に惹かれていくセオドアがいつしか彼女と恋に落ちるという物語だ。セオドアとの日々の会話などで、OS『サマンサ』が進化する様子には、人工知能であっても恋愛が成立すると感じさせるリアリティがあった。
「人生は一度だけ。不倫しましょう」との過激な宣伝文句で利用者を伸ばした、不倫交際目的のソーシャル・ネットワーキング・サービス「Ashley Madison」(www.ashleymadison.com)。ところがそこに登録されていると思われていた約7万人の女性ユーザーが、実はソフトウエアで作られた「会話ロボット」だったことが判明して話題となった。
同サイトは46カ国でサービスを展開、2013年には日本にも進出して、日本人ユーザーは既に180万人を超えたと話題になった。しかし、この7月にカナダのサイトから、ハッカーによってユーザー情報3200万人分が漏洩するという事件が発生したことがきっかけで、女性ユーザーが会話ロボットであることが明らかになったのだ。会話ロボットで、浮気をしたい女性がこのサイトに無数にいるというイメージを作り出していたことは明らかに詐欺行為だが、不倫かどうかの判断は難しい。
米グーグルは、5年以内に人間に近い検索エンジンが登場し、さらに2029年までには検索エンジンが人間のような能力を持つようなると言っている。また2045年には、機械が人間を超える「シンギュラリティ」と呼ばれるターニングポイントが来るだろうと予言している。
ロボットは、主体である人間に対して何らかのかたちで答えを返す「客体」に過ぎないと考えられて来た。しかし、人は人工知能を持つロボットに感情移入してロボットと“人間関係”が結べたと錯覚してしまう。映画『Her』の題名が客体を意味する代名詞であったことはある意味示唆的であるし、A・Iが人間を超える未来は直ぐそこまで来ているのだろう。

| 15.10.02

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