自然地名
防災意識の高まりから、自分たちの住む土地がいざという時安全かどうかを知っておきたいという声が、最近多く聞かれるようになってきた。
「・・・わたくしどもの先祖は、こうした地形の観察を実に丹念にかつ、的確に捉えて、その土地のクセを実にうまく地名として表現しており、それをわたしどもは、“自然地名”と呼んで、その地名を子々孫々に伝えて、今日に至っている。それは危険を示唆していて、危険予知の生活の知恵ともいえる。」 建設省で災害検査官として20年近く携わってきた小川豊氏は、1986年に出版された自身の著『災害と地名―語りつがれる危険予知』(山海堂)の中で、このように地名の重要性を訴え、災害に関係する地名の由来や意味を解説している。
昨年8月に広島北部を襲った大規模な土砂災害では、旧来の地名が災害と結び付けられ話題となった。そこの旧地名は「蛇落地(字)」、蛇が落ちてくる場所という名前で、蛇の「巳」は「水」に通じ、古くから土石流の通り道であったことが察せられるというのだ。しかしこうした旧地名は嫌われる事が多く、本来危険な地域であっても、新たにつけられた「八木地区」などという地名では先祖の警告が消されていることが多い。
今年4月、タモリがナビゲーターを務めるNHKの人気番組「ブラタモリ」が3年ぶりに復活した。「ブラタモリ」(http://www.nhk.or.jp/buratamori/)は、タモリが古地図を手に都会を散策し、街角で発見したちょっとした痕跡や、不思議な地形から、隠された街の歴史やエピソードを紹介していくというものだ。好評の理由は、地形に着目した視点だ。「高低差のないところになんの興味もなし」と言い切るタモリは、自らを“ダンサー”と称するほどの“段差オタク”、段差を見ればその街の成り立ちもわかるという。そして段差が地名の由来になっていることも多い。
日本全土、どこにいても何らかの自然災害を受ける可能性がごく普通にあると感じていながら、現実には心の準備ができないまま巻き込まれてしまう。せめて原発の場所や住んでいる土地の成り立ちを知っていれば、被害を最小限に食い止められるのではないだろうか。
自然地名は、その地域特有の地形や土質、また災害の履歴などを後世に伝える大切な「 証拠」であり「文化財」である。気軽に地名を変えるものではない。
| 15.09.18