食産プレミア
まとまりそうでまとまらないTPP交渉だが、農業生産者にとっては心配が尽きないだろう。しかし見方を変えると、日本の農業生産者ほどマーケットとの繋がりを持つことの強みを感じる人達はいないのではないだろうか?
ひとつには、最近人気の「ふるさと納税」だ。故郷や自分の応援したい自治体に個人が2000円を越える寄付をすると、住民税のおよそ2割程度が所得税から還付、住民税から控除される制度だ。更にはその地域の特産品が寄付額の半分相当送られてくるものが多く、納税者の大きな楽しみになっている。また、寄付者が町への定住に関心を示したり、特産品を新たに購入するなど、寄付額以上の効果も出ているようだ。ふるさと納税のポータルサイト「ふるさとチョイス」(http://www.furusato-tax.jp/)も人気を集めている。一方特産品などの特典を設けていない自治体は、見込まれた住民税が減るところも出ているらしいが・・・??
そしてまた、雑誌のおまけに旬の野菜や米、魚介類が付いてくる“食べ物付き情報誌”という新しいスタイルがうけている。岩手県花巻市のNPO法人東北開墾の『食べる通信』が全国に先駆けて実施した。始まりは、2013年7月に創刊された月刊誌『東北食べる通信』2,580円(http://taberu.me/tohoku/)。代表の高橋博之氏は「生産者の熱意や苦労を伝え、適正価格での販売を応援したい」と語り、生産者と消費者がもっとつながる仕組みとして実践している。おまけの産品に限りが在るため現在約350人が空き待ちだそうだが、発行する地域も『四国食べる通信』ほか、加賀・能登、兵庫と13地域に広がり、伊豆、薩摩、奈良などが創刊準備中、更には漁協を含め60の地域・団体が情報誌の発行を希望していると言い、その勢いは止まらない。
都会の消費マーケットは、地方とつながりたい人、作っている人に会ってみたい人、生産者の話を聞きながら農業体験をしてみたい人と、食の生産者とつながりたいニーズが盛り上がってきている。東日本大震災以降、農家と直接つながりを持っておくことの大切さに気づいた人も増えた。これらの動きは国産品の安全性と共に海外の消費者からも評価をうけて、日本の農業の強みにつながっている。
日本のTPP交渉は、強いと思われている工業製品よりも、むしろ産地との“つながり”という大きなプレミアムを付け得る農産物の方が、意外に強い産業なのではないだろうか?農業関係者はTPP交渉を過剰に恐れることはないだろう。
| 15.08.07