数寄
北海道出身の漫画家、山下和美のエッセイ漫画『数寄です!』(集英社)が話題だ。マンション住まいだった著者が、数寄屋造りの自邸を建てるまでの詳細をレポートしたものだ。“和風”ではなく“和”の住まいと暮らしに正面から取り組んだ、涙あり笑いありの試行錯誤の記録は、便利や楽を最優先しない生活の楽しさを見せている。自分の住み家や暮らしを新しい角度から見つめ直すヒントになるというわけだ。
一方、2年に1度開催される芸術文化の祭典「神戸ビエンナーレ2015」は、今回で第5回10年目を迎える。今年のテーマは「スキ[su:ki]」だそうだ。神戸の文化の力を結集させ、この地が育んできた進取の気風でアートの既成概念を打ち破り、みなとまち神戸から広く国内外に、新しい「スキ=数寄」を発信しようとするものだ。
復興に文化の持つ力は大きい。日本語には、茶の湯や生け花などの風流・風雅の道に心を寄せる、ありきたりの「好き」では表し切れない「数寄」がある。過去と強制的に別離させる大震災のような災害は、甚大な被害をもたらす物心共の大きな損失だが、開き直って見方を変えれば、新しい創造への出発点を与えられたとも言える。
数寄は、気に入った物事に対して一途に熱中することを意味し、芸道ばかりではなく恋愛に没頭し、陶酔する精神をも表している。使われ始めたのは平安時代中ごろと言われている。その後、安土桃山時代から江戸初期にかけて茶の湯の流行に伴い、「数寄」な思いに任せて作られた建物の様式が「数寄屋造り」だ。茶室の様式を取り入れ、装飾を排した簡潔さが特徴だ。
それにしても東北の復興住宅なるものに、津波を乗り越えて新しい東北の数寄を創り出そうという意気込みは見られない。使い切れない予算が(3兆円も)余っているらしいが、津波は又必ずやって来る。津波に耐えられる新しい構造の建物を余った予算で開発できないのだろうか?
高台に逃げるだけで同じものを建てていたら意味がない。飛騨の合掌造りや沖縄の石垣囲いの家も、厳しい自然に対峙して創り出された、人の知恵が文化にまで昇華した良い例だろう。
| 15.03.06