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ジャック・マー(馬雲)
9月19日、中国最大の電子商取引を手がけるアリババ集団( Alibaba Group Holding Limited )がニューヨーク証券取引所に上場したことは記憶に新しい。創業者に有利な種類株が香港市場に拒否された後の米国上場だ。注目すべきは、米国に上陸していない企業としてNY市場に上場した同社の時価総額が、アマゾン、フェイスブック、IBM、インテルを上回る約2,310億ドルに達したことだ。これを超える米国のIT企業は、アップル(6,090億ドル)、グーグル(4,000億ドル)、マイクロソフト(3,870億ドル)だけだ。
アリババが米国でのIPOに成功したのは、米国企業が中国で成功するより先に、アリババが中国以外で成功する可能性が高いと逆説的に市場に判断されたからだろう。そして更に面白いのは、同社は米国に進出するつもりはなく、今後アマゾンやグーグルのようになるつもりもないと明言している点だ。
アリババの創立者であるジャック・マーは、「アリババが中国の電子商取引で成功したのは、中国の既存商取引インフラがひどすぎたからだ。これに対して米国で電子商取引の比重が限定的なのは、従来型商取引インフラがしっかりしているので、電子商取引は付け足しでしかないからだ」と、驚くに値しないと説明している。「米国では、電子商取引はデザートのような存在だが、中国ではメインディッシュなのだ」とも。そして、アリババは成長戦略のひとつに「発展途上国への進出」をあげている。発展途上国には、既存商取引の恩恵にすらよくしていない人々がおよそ数十億人存在するという。20世紀初頭の農業国であった米国で、シアーズローバックというカタログ販売会社が米国ナンバーワン企業だった時代があったことと似ている。
ジャック・マーの中国語版ツイッター『新浪微博(Sina Weibo)』のフォロワー数は、現在約1580万人だ。7億人を突破した中国のネットユーザーに発信力を持つことは、今や不可欠だが、彼があえて中国語のみを用いてネットで発信しているのは、その発信力で考えれば一見不利なようにも見える。しかしそれは、アリババが米国型グローバル化を目標としていないことの表れともとれる。
「わたしは1日たりとも米国で教育を受けていない」と、マーは誇らしげに述べた。「わたしは100%、メイド・イン・チャイナだ」。米国市場に依存しないビジネスモデル!これこそが真にグローバル企業になり得る素質を持つことを意味するのではないだろうか?
この男はすごい!
| 14.11.28
ローマと奈良
先日、奈良県橿原市の新沢千塚(にいざわせんづか)古墳群の126号墳(5世紀後半 蘇我満智の墓?)で出土したガラス皿の化学組成が、ローマ帝国(前27~395年)領内で見つかったローマ・ガラスとほぼ一致することが、蛍光X線分析で初めて科学的に裏付けられた。この皿とセットで出土した円形切子ガラス括碗の化学組成が、ササン朝ペルシャ(226~651年)の首都クテシフォンの王宮遺跡「ベー・アルダシール」で見つかったガラス片と同じであることは既に判明している。同様のローマンガラスは朝鮮半島、慶州の古墳群からも見つかっている。遠方の、起源の異なるガラス器が、5世紀の日本と朝鮮半島に中国を経由せず西域から直接もたらされたと見られており、仏教伝来(538年)以前の東西交流の実例として注目を集めている。
今回蛍光X線分析でローマ伝来と科学的に裏付けられた皿は、中央アジアエフタル、突厥(ウイグル)、柔然(モンゴル)、高句麗経由で新羅、そして日本に移動したのではないかと推測される。特に126号墳は、金・銀・ガラス・ヒスイを用いた大量の装飾品が遺骨に装着したままの状態で出土し、火熨斗(ひのし、炭を入れてアイロンとして使用した金属器)が日本で初めて出土するなど、中国にはないローマと近似性のある出土品が話題の多い古墳だ。
奈良の正倉院はシルクロードの終着点であるとよく言われるが、聖武天皇(724~49)時代の文物を集めており、126号墳より300年近くも後の物である。
一方、日本の歴史研究者、ガラス工芸家の由水常雄は、4世紀後半から伽耶国が滅ぶ562年までの三韓時代―馬韓(百済)、弁韓(伽耶)、辰韓(新羅)の朝鮮半島諸国のなかで、新羅のガラス器だけが異質な要素を有し、中国ガラスよりローマ・ガラスの影響が強いと見られることに注目し、新羅文化がローマ文化の強い影響下にあったとする仮説を提唱している。それは古墳より出土している膨大なローマ文化を背負った出土遺物によってはっきりと認識できる。新羅は辰韓時代から法興王(513~40)までの約300年間、数回(4回)の遣使をのぞいて、中国とは無縁の国であったという。
仏教伝来(538年)以前の倭国の歴史も、ローマにつながるのか?古事記を最古の文献とし、神話を国のルーツとする伽耶国系天皇家というプロパガンダも、少しずつ色褪せてきているようだ。
| 14.11.21
サルベージ・パーティー
「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」( http://foodlosschallenge.com )の活動の一環で、各家庭で余った食材を持ち寄り、プロの料理人に目の前で調理してもらうサルベージ・パーティーが、主婦たちの間で人気だそうだ。プロの手にかかると余り物もしゃれたフレンチやイタリアンに変身していく、その意外性と、フードロス問題を学びながら、余り物を美食に変える知恵も同時に学べるのが魅力になっている。
レシピサイト「クックパッド」でも、リメイクレシピが10000件以上投稿されており、同様な別のサイト「レシピブログ」では『賢く変身!残り物リメイクレシピ』が人気上昇中とのことだ。
平成21年に農林水産省が発表した最新統計によると、日本では年間約500~800万トンの「食品ロス」を出している。これは世界全体の食料援助量の2倍にあたり、日本の主食向け年間米収穫量の約813万トンにも匹敵するらしい。そもそも日本で食品ロスを発生させる要因となっているのは、「消費期限(米国ではUse by)」とは別に他の国と比べかなり短く設定されている「賞味期限(米国ではBest Before)」だったり、加工食品の外装に少し傷があるだけでメーカーに返品する慣習など、日本の消費者の行き過ぎた安全・安心・清潔志向だと指摘されている。
日本の食料廃棄率は、世界一の食料消費国であるアメリカをも上回るとの試算もあるようだ。食品ロスは単なる廃棄ロスだけではなく、その返品・返送、回収、廃棄、リサイクルの過程で出るCO₂増加というデメリットもある。食品ロスが削減できればCO₂も減少し、消費者にとっても大きなメリットになるはずだ。しかし何と言っても、日本の食品廃棄の半分以上が家庭からの廃棄であることを見過ごしてはいけない。これは教育の問題でもあるのだろう。
日本人は経済大国を謳うならば、その影響の大きさを自覚して家庭レベルからの食料廃棄を考え、食材のサルベージを多角的に理解するインテリジェンスを持つ必要がある。安易に「賞味期限○月○日」などと切って捨てるのではなく、「Best Before (B.B.)○月○日」と英語で言うだけでも廃棄ロスは減るだろう。米国の圧力で安全を棚上げにしてまで左ハンドル車を合法にしている日本なら、それぐらい英語でもバチは当たらないのでは?
| 14.11.14
GoogleX
米IT企業を代表するGoogleの未来部門Google X Labに生命科学部門があることはあまり知られていない。Andrew Conrad氏が率いるこのチームは、がんやその他の病気の撲滅を目指して、体中をIT技術によりパトロールするナノテクノロジー医療系プロジェクトを発表した。
ナノ粒子の医療活用は、カリフォルニア工科大学やマサチューセッツ工科大学、最近ではジョージア大学もガン治療薬の代替手段として探求しており、Googleも“Google X・ライフサイエンス”に 100人の部隊と資本を投じて参戦したというわけだ。
Google Xが開発したナノ粒子は、幅が赤血球細胞の1,000分の1未満の大きさで、がん細胞などに付着してマーカーになるよう設計されている。多様なナノ粒子を入れたピルを飲み込むことで血管にマーカーを送り込み、体内にある特定の細胞、タンパク質、あるいはその他の分子を探し出してそれに付着させる。これらのナノ粒子は磁気を帯びているため、それぞれが標的とする細胞に付着したまま、手首に装着する検知用端末の近くに(血管内を移動して)集まり、各種の病気の兆候を端末に“報告”するという。このプロジェクトの目標は、がんやその他の病気について早期に警戒し、最も効率的な治療を探ることにある。このシステムによって、医師が施していたあらゆる検査が同時にかつ瞬時に可能になるそうだ。
Google Xはまた、スマートコンタクトレンズを使って涙の成分から血糖値の変化を計測して、糖尿病を監視しようというプロジェクトなども進めている。IT技術とライフサイエンスを結びつけたさまざまな実験的プロジェクトを立ち上げて、究極の予防医療を行い、あわよくば病気や老化自体までなくしてしまおうとするおう盛な意欲と野望を持っている。
今、医療/ヘルスケア業界ではITベンチャーの登場が相次ぐことで、従来とは違う視点・発想、コンセプトの製品やサービスが生まれつつある。例えば、日本国内でも患者数が300万人を越えて社会問題になっている認知症、特にその大半を占めるアルツハイマー病の克服などは世界レベルの至上課題である。超早期の予防的治療が必須である今、アルツハイマー病の根本的治療・予防薬の創製を見据えて、異分野のITとの融合がまさに期待される分野と言える。
GoogleのようなIT企業が医療に挑戦する発想が世界を動かしていく。かつて日本を代表する企業SONYやPanasonicが、未だに4Kテレビなどにこだわっている姿を見るに忍びない。新しい分野に挑戦し続ける姿勢のみが、ブランドを育てていく“力”だと思うのだが。
| 14.11.07