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ノームコア

雑誌『ニューヨーク・マガジン』(http://nymag.com/)が、今年の上半期に次なるファッショントレンドとして紹介した「ノームコア(Normcore)」が話題になっている。
「ノームコア(Normcore)」は、ノーマル(Normal)とハードコア(Hardcore)を組み合わせた造語だ。ファッション界では、1990年代に「ストリート」、2000年代初頭に「セレブカジュアル」、後半は「ラグジュアリーモード」など、その時代に注目されたファッションスタイルを言い表すことばが誕生してきた。しかし、近年新しい用語が生まれてこなかったため、「普通のファッションがトレンド」と主張するアメリカ発の「ノームコア」ということばに多くの人が飛びついたようだ。
「ノームコア」の定義は「周囲の人と調和して、個を主張しない服装」で、さらに「流行やブランドから距離を置く、地味でベーシックなファッション」という意味も持っているとしている。アイテム的やスタイリング的に目新しいものはなく、そういう「新しさ」の逆を行こうとしているのが「ノームコア」だ。夏の代表的コーディネートは、薄色デニムや上下セットアップ、ソックス&サンダル、スウェット&つっかけ、スニーカー、バックパックといったカジュアルなものだ。しかし、シンプル且つ上質な素材にこだわり、自分のアイデンティティーと合致させることがポイントになっている。
「ノームコア」のスタイルアイコンは、どうもアップルのスティーブ・ジョブズらしい。彼は新製品発表会でいつもイッセイミヤケの黒いタートルネックにボトムはブルージーンズで、タートルの裾をジーンズに入れ足元はグレーのニューバランスのスニーカーだった。彼の「自分のスタイルを貫く姿勢」に共感する人は多く、IT業界のトップがこぞってこのシンプル&カジュアルなスタイルを真似していることが流行の基になっている。ジョブスは新製品で世界中を夢中にさせておきながら、自分は流行を取り入れて外見で個を主張することに飽き、反抗していたのかもしれない。
アメリカは今、金融緩和で見かけ上の経済指数は良いが軍事力でかつての勢いはなく、株価は上がれど消費は落ち込み、失業率は見かけ倒しで、結果オバマの人気はガタ落ちだ。また、アメリカ人は自分の国が世界で突出した存在であろうとする外交姿勢に孤独を感じているようにも見える。他人とは違うという個性の主張などほんとうに必要なのだろうか? それよりも「シェア」の時代、大勢の中に紛れ同じ目線で多くの人々とつながりながら、実は質にこだわることのほうが幸せなのではないか?と感じ始めているように見える。「ノームコア」は、成功したアメリカ人の心情を表す、日本の「ワビサビ」にも似たスタイルと言えるのかもしれない。

| 14.10.10

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