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音頭ビート
連続テレビ小説『あまちゃん』が大変な話題作となり、前衛音楽家の大友良英が担当した劇中音楽も、今や作った本人の予想をはるかに超えて、熱風のように日本全国に広がっている。大友良英が意図したかどうかは別として、短い時間でインパクトを与えるドラマと、あの独特の“音頭ビート”は相性が良かったのだろう。時を同じくして「音頭」という楽曲形式が、ロックやクラブミュージック、先鋭的な音楽ジャンルで取り入れられ、閉塞感漂う現代社会を一気にひっくり返す新風を起こしている。
ファッションモデル出身の人気歌手、きゃりーぱみゅぱみゅの最新アルバム『なんだこれくしょん』のタイトル曲も、前半が音頭の形式だ。和太鼓の音色に「ぱみゅぱみゅ」という合いの手が入る。音頭で始まって、途中からエレクトリカルパレードのように変調し、音頭とマーチが数十秒の間に展開されるというまさに異形の楽曲だ。 彼女の存在そのものが“テーマパーク”と評される所以だ。また、インドネシア発祥の高速ダンスミュージック“FUNKOT”を取り入れたアイドルとして人気上昇中のhy4_4yh(ハイパー ヨーヨ)が、日本の夏の象徴である花火と音頭のビートを融合してリリースされたニュー・シングル、「はなびーと」が人気を集めている。異様に暑くなり続ける日本の夏に、ライヴ会場での反応は凄まじい。
“音頭ビート”は、日本の労働歌において古来より存在した大衆扇動型楽曲形式のひとつだ。曲の主要部分を太鼓や笛の音にあわせ独唱者が独唱し、それに大勢の民衆が「エ~ンヤコラ」などと合いの手を唱和し、次第に盛り上げていく。もともとは苦しい労働を乗り切る麻酔効果を織り込んである。
しかし今なぜ、リズムパターンが出尽くした感のあるPOPS中で“音頭ビート”が変貌自在に活用され、新しいリズムとして注目されているのだろうか?理屈ではなく、日本人が明らかに身体で反応してしまう“音頭ビート”は、欧米志向のPOPSの中にあって日本的なものへの憧憬と、麻酔効果を必要とする閉塞感のある世の中へのやるせなさとの混じり合いが背景にあるのではないだろうか?これが『あまちゃん』ヒットの原因?閉塞する世の中に立ち向かていく子(自分)への「エ~ンヤコラ」が日本のパワーの源なのか?
| 13.08.30
極楽浄土修復
国宝で世界遺産にも登録されている平等院鳳凰堂。平安時代の日本建築が外来文化その物であったことを示す代表的名建築である。来春修復が完了しその外観が一新される。
さらには1053年に建立された当時の色調で復元される、と発表されたのだ。退色した柱全体や屋根瓦を赤や黒の建立当時の鮮やかな色で仕上げ、屋根の上の鳳凰像には金箔を施すなどして、創建時の姿で再現されるという。この「真っ赤で金ぴか」の姿に変身することに、賛否両論わきあがっている。
平等院鳳凰堂は、渡来人の流れをくむ平安貴族、藤原頼通が極楽浄土を現わそうと平安後期に創建したものだ。国宝建造物などの修復にあたっては、可能な範囲で古い形式や仕様を復原する方針が取られているが、前回、昭和50年代の鳳凰堂修理は古色を重視して行われていた。しかし近年の調査で、赤色顔料や金箔の痕跡などが確認され、今回は現状を改め建立当時の形態に戻すという判断が下されたのだ。「以前までは枯れた印象だったが、極楽浄土とはこうだったというお堂になるだろう」と住職は話す。一方で市民からは、せっかくの古色が失われ、わび・さびの感覚から外れると、難色を示す声も上がっている。鮮やかな赤色からは、年月を経て色がくすみ形が崩れたものの持つ「さび」という価値が失われ、金箔は、質素単純なものに美を見出す「わび」という価値に反するというのだ。
堂内の天井や小壁は宝相華を主とする文様で埋めつくされ、柱にも、天衣を翻して舞う天人や楽を奏する天人、飛び立つ鳳凰、宝相華、唐草文様などが描かれ、建立当時の鮮やかな彩色が窺える。そして天蓋中央部の大型の八花鏡のほかに、天井には計66個もの銅製鏡が吊られ、夜の灯明を反射して幻想的な世界を創り出していたと想像される。今回の極楽浄土修復は、創建当時の渡来人系平安貴族が、鳳凰堂を「地上に出現した極楽浄土」としてどの様に表現していたか知ることに意味があるように思う。
現代の日本人が日本の伝統文化だと思っている事の大部分が、実は大陸・半島からの渡来文化であることは絶対的な事実だ。事実を事実として理解する包容力と歴史認識が、現代を生きる日本人に必要なのは言うまでもない。
| 13.08.23
サバニスト
サバを食らい、語り、描き、歌う、サバ好きが集う「サバナイト」なるものが、夜な夜な開催されているらしい。何とも怪しい響きだ。「サバが好き」と口にするだけで、友達が増えて人生までもが変わるかと思うようなコミュニティーが広がっている。そんなサバコミュニティーの参加者たちは職業も趣味もバラバラだが、サバが好きだというだけですぐに打ち解けて、サバ料理を前にするとみんなが笑顔になるというのだ。
また、昨今地場産業の華とも言われているご当地バーガーでも、鯖はその例にもれず人気で、サバとバーガーで“サバーガー”も全国的に鯖の有名産地に登場。少々遠くてもわざわざ食べに来る人も多いので、地域活性化に役だっているようだ。
鯖は昔から日本の食文化になじみの深い魚だが、下魚とも呼ばれたほどの大衆魚でどこでも手に入るような魚だった。しかし国産の真鯖の漁獲量は激減し、今では高級魚だ。大分の佐賀関で水揚げされる「関鯖」は出世した鯖の代表的ブランドだが、何で鯖が?というような値段だ。而して日本の鯖はノルウェー産に取って変わられ・・・サバニスト達は今度はノルウェー産までも食べ尽くしにかかっている。日本人はどうしてここまで食べ尽くすのか?
かつて腐るほど獲れた鰊しかり、鮪しかり、鰻しかり、鯨しかりである。鯖の気持ちになると「サバニスト」とは恐ろしい集団である。「サバナイト」に至っては、KKKの生贄の儀式か?ホラーだ。
笑いながら自分たちを根こそぎ食べ尽くそうとする恐ろしい集団!なのかもしれない、日本人は。
| 13.08.09
野心女子
林真理子の人生論「野心のすすめ」が売れているそうだ。著書の中で彼女は、野心を抱かなくなった若い人たちに、失敗と屈辱に満ちた自身の青春時代を赤裸々に明かしながら、「挑戦し続けると、運は強くなる」「“高望み”で、人生は変わる。人生は何度でもリセットできる」と説いている。
本書の中には、無理と言われ続けた願望を「高望み」し、「挑戦」し続けてきたことで叶えてきた自らの体験に基づく、夢を実現させるためのヒントも満載だ。そうした彼女の一歩一歩ほしいものを手に入れてきた姿が、20~30代の女性を中心に共感を呼び、現在20万部を超えるベストセラーとなった理由になっている様だ。さらに「夫婦共働きで、1.5人分稼げればいいよね」とか、「服はファストファッションでいいよね」、「お金を使わなくても人生は楽しいよね」…など“足るを知る”と言えば聞こえはいいが、「低め安定」の日本の風潮に警鐘を鳴らしている。
時を同じくして発売され話題になったのが、FacebookのCOOシュエル・サンドバーグ著の「LEAN IN」。2児の母でありながら、誰もが羨む社会的地位と巨万の富を得た彼女が、「男社会に物おじせず、したたかに成功をめざそう」と、働く女性に野心を抱くことをけしかけている。米国の産業界では、重要な仕事の86%を男性が担っていて、こうした仕事を女性が担えないのは、高い目標を掲げようとせず自分の能力を過小評価している女性自身にあると主張する。女性が権力を手にするにはまず自分たちの内面にあるバリアを取り払うことが大事ではと問いかけている。
“野心”と言えば腹黒かったり厚かましいイメージが先行し、野心家となったらほとんど悪人扱いだ。しかし、それでも“野心”に惹かれて両書を手にした読者たちが本当に聞きたいのは、著者の自慢話ではない。両書にも、インフレ設定を数字で示すアベノミクスにも欠けているのは、日本人が目標とする“ライフスタイルの提唱”ではないだろうか。「低め安定」で小さく縮こまった生活に、そもそも日本人の未来は無い。
| 13.08.02