食べられる映画館
2010年に始まった「東京ごはん映画祭」が今年も10月2日からスタートしている。 青山のシアター・イメージフォーラムをメイン会場に、東京ごはん映画祭実行委員会主催で「おいしい映画」を一堂に集め、単に映画を観るだけでなく、おいしい食事やおいしいライブも同時に体験しながら、五感をフルに使って映画を楽しむことのできる複合型イベントだ。年々、食やカルチャーに関心のある女性たちを中心に人気を集めている。これまでは恵比寿を拠点に開催してきたが、今回は青山を中心に表参道や渋谷も巻き込んでさらにパワーアップしている。
今回、上映されるのは食にちなんだ15作品。
「食べるラー油」を全国的な知名度に押し上げた「辺銀(ペンギン)食堂」の夫婦をモデルに、国際結婚、離島への移住、帰化申請など、「食べるラー油」誕生の裏に隠された夫婦の絆を描く『ペンギン夫婦の作りかた』。
「世界で最も革新的なシェフ」と賞賛された「エル・ブリ」の料理長フェラン・アドリアの、食への飽くなき探究心に迫るドキュメンタリー『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』、など、おいしい映画が揃っている。
さらに、本映画祭のきっかけとなった作品、フードディレクター野村友里が「食べるということこそ、生きること、人生とは食べる旅」をテーマに、食の原点を辿っていく『eatrip』の上映では、作品のテイストにマッチした渋谷のフレンチ「Bistro Maffick」で、旬のベジタブルコースを食べながら映画を鑑賞できる。「ごはん付上映会」という形式で、他の映画もそれぞれに適した店でいくつか上映されている。
このように食と映画を組み合わせた取り組みとしては、ロンドンでも今年5月に、映画の中に出てくる食べ物がその場で食べられるという“食べられる”映画館「edible cinema」が登場した。エレクトリックシネマが始めた「edible cinema」の仕組みは、まず上映前に番号のついたスナックやドリンクのセットを観客に配る。そして、上映中に特定のシーンになると、スタッフが大きなプラカードを掲げ、観客はその番号のものを食べる、というもの。まさに同時進行で主人公と同じものを食べて映画を体感出来るというわけだ。
映画と食べ物の組み合わせによって、五感をフルに活用し体感する映画エクスペリエンスは、Smell-o-Vision と呼ばれ、50年も前から言われていた考え方だとか。主人公と同じものを食べているというだけで、まるで自分も映画の中に居るような感覚になり、一体感をもって映画を鑑賞できるというわけだ。スマホの普及などで、映画館ばなれが浸透してきた今、改めて行きたい“映画館”になりそうだ。
| 12.10.05