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SNEPな人
20~60歳の無職の未婚者で、一緒にいる人が家族以外に一切いない孤立無業者「SNEP」(Solitary Non-Employed Persons)が、近年急増している。「SNEP」な人は、就職活動を断念する傾向が強く、そもそも仕事に就く希望さえをも失っていることが多く、ニートを生み出す背景にもなっている。「SNEP」な人の中で、電子メールの送受信をしている人は40%程度で、ネットをやっているネット依存型の人はほとんどおらず、人と関わらない「孤独」な状況が大きく影響しているのが実態だ。貧困問題の背景には孤立問題がまちがいなく存在し、ニートを生み出しているのではないだろうか。
その一方で、資本金59万円、生徒全員が株主兼社員、そんな株式会社が、鹿児島の指宿市立指宿商業高校にある。社名は「指商(いぶしょう)」、在校生590人が1人千円ずつ出資し、高校が会社登記したという全国初の試みだ。前年の3年生が定款作りなど準備を進め、公証役場や法務局に出向いて今年4月に法人登記した。「特産のカツオやサツマイモのキャラクターはどうだろう?」「指宿のテーマソングを作りたい!」など、「社員」として特産品を使った商品開発や、まちを活性化する事業開発に取り組もうと意欲的だ。5月下旬の1年生の「ビジネス基礎」の授業では、生徒たちが新事業の企画案等を出しあったそうだ。また、利益が出れば株主である生徒に配当金も配られ、資本主義の原理を実体験から学習できる。会社をゼロから作り育てることで、商業高校のベンチャー教育の実践になり、即戦力として企業のニーズが高い人材育成にもつながると期待されている。
社会状況と隔絶して、消費税が上がろうが、原発事故が起ころうが、中国・韓国と国境でもめようが、デモにも参加しない、自由を謳歌してきた日本の学生たち。決して働く意欲がないわけではないのに、40年近く毎日仕事中心の生活で自由になるのは60歳を過ぎてからというライフスタイルでは、それを受け入れたくない部分も大きいのだろう。「指商(いぶしょう)」のように、学生時代に個人または仲間内でのグループを作って、自分たちの力でやりがいを持って社会と対峙する環境を作り出し、成果を出せば生活の糧が得られるという=「起業」体験を、教育として学生にほどこさないと 「SNEP」は更に大きく社会問題化してくるだろう。
| 12.09.28
“スタンプ”コミュニケーション
Facebook、Twitterなど米国発のサービスが多いSNSの世界で、スマートフォンで使う日本製の「LINE」が存在感を増している。昨年6月末にサービスを始め、今年9月上旬には登録ユーザーは世界で6000万人、国内でも2800万人を突破した。最初の8カ月ほどで2000万ユーザーを獲得した速さは、Facebook、の28ヶ月を大きく上回った。
そもそも「LINE」は携帯電話における “通話”や “SMS”のリプレイスだったが、開発したNHN Japanの森川亮代表によると、 日本のコミュニケーションサービスでは絵文字やデコメ的なものがフィットするのではないかという仮説のもとに、“スタンプ”を出したのが当たったとのことだ。実際250 種類以上のオリジナル “スタンプ”は、一瞬で喜怒哀楽が伝わる、文字に変わるコミュニケーション方法として、世界各国から絶大な支持を得ている。特に台湾では“スタンプ”のキャラクターがタレント並みの人気になっているそうだ。“スタンプ”機能は「メール本文=文字」とは切り離されており、”スタンプ”というネーミングどおり、押すと“スタンプ”だけが相手に送信される。そもそも人間は「言語」よりも「感性」が先立つ生き物であり、ソーシャルメディアに“リアルタイム性”が求められる今、言語以上に感情的な表現のできる “スタンプ”を使った「ビジュアル・センス・コミュニケーション」は大きなトレンドになってきている。
7月から提供を開始した企業によるスポンサードスタンプの第一弾は、日清食品が発売するチキンラーメンのキャラクター「ひよこちゃん」と、ローソンのキャラクター「ローソンクルー♪あきこちゃん」のスタンプ。期間限定で配布されたが、日清食品のひよこちゃんスタンプは1日に400万件以上使われた。「LINE」ならではの感情豊かな企業キャラクターが、「LINE」上で飛び交ったのだ。企業がキャラクターを介して消費者とコミュニケーションをとる事例は、世界で日本がいちばん多いかもしれない。特に最近のキャラクターは “売ること”を目的とせず、Webやイベントなど多様な消費者との接点でコミュニケーションツールとして活用されるケースが増えてきている。
感性によるコミュニケーションは、日本の「禅」や「ワビサビ」にも通じるもので、言語を超越した、極端に言えば全世界人口70億人が理解し合えるツールにも成り得るということだ。「LINE」は、開発者の森川亮氏の思惑をも越え、世界最強のメディアになる可能性をはらんでいるのではないだろうか?
| 12.09.21
袋麺バトル
東日本大震災後に非常食として需要が拡大、中食ブームの影響もあって、2010年度比104.2%の生産増加となったインスタントラーメンだが、中でも、年々減少傾向にあった袋入りのラーメンが人気復活傾向にある。
袋入りラーメンは1989年に生産量をカップラーメンに追い抜かれて以降、生産量では2倍を超える開きがあるものの、2011年の伸び率はカップラーメンの3.9%に対し、袋入りラーメンは4.9%を記録して、生産伸び率ではカップラーメンを追い越した。そして、「サッポロ一番」や「チキンラーメン」といったメガブランドが根強い人気を誇る保守的な袋入りラーメン市場において、昨年末に東洋水産が新発売した「マルちゃんラーメン正麺」は大ヒットを記録し、それが袋入りラーメン人気復活のきっかけにもなっている。「マルちゃんラーメン正麺」ヒットの理由は、従来のもののように日持ちがするのに、“生麺”のような食感を残す「生麺うまいまま製法」という、まったく新しい製法が取り入れられていることだ。東洋水産は、「マルちゃんラーメン正麺」の売上げが3カ月で42億円に達したため、初年度100億円の販売目標計画を200億円に上方修正したそうだ。袋入りラーメンは一度ヒットすると根強い人気商品になるため、他社も新商品を続々登場させ、“生麺感”をめぐる開発競争が勃発しそうだ。
世界で初めて即席麺を発明した安藤百福が、人類に有用だと信じたその製法技術を敢えて自社に留めず、インスタントヌードルとしてグローバル化に尽力した功績は大きい。今や即席麺の消費量は全世界で年間982億食(2011年)に及び、世界の総需要数トップ10は、中国・香港、インドネシア、日本と続き、ベトナム、アメリカ、韓国、インドの順になっている。一人当たりの年間消費量では韓国が約70食、インドネシアは60食に至っている。今後はロシア、ブラジル、メキシコ、ナイジェリアなどの新興国、インド、ベトナムなどアジア各国で加速度的に伸びていくだろう。それに対し、日本の年間輸出量は5980トン(約7000万食)に止まり、輸出実績は、総数量・金額ともに近年伸びていない。しかし、日本の技術輸出でインドネシアのサリムグループ・インドフードは今や世界最大の即席麺メーカーだ。即席麺が流通している国では、既に加工方法は伝播しており、各国のメーカーがシェアを握っている。今後は、即席麺製法が浸透したように、新しい日本発の製法“生麺感”が世界で通用していくかを見守って行きたい。
| 12.09.14
街コン/肉コン
このところ、イベント性でも広がりを見せる出会いの場 “街コン”。ライブハウスで音楽を聴きながら盛り上がる“楽コン”や、渋谷肉横丁全店を貸し切った“肉コン”という面白イベントも注目されている。中でも7月に肉の名店17店舗が集まる日本最大級の肉のテーマパーク「渋谷肉横丁」で開催された街コンは、男女600人限定のチケットを完売して大盛況だった。
最近健康面から、肉食が忌避される傾向の一方で、うまい肉が人と人とをつないでいくという考えが相変わらず根強くある。某食品会社が、この春に成人男女を対象に行った「焼肉とコミュニケーションに関する意識調査」によると、家族や友人など身の回りの人たちとコミュニケーションを楽しむ際に食べたいメニューのトップは、「焼肉」だった。また「焼肉の効能・効果」の問いに対しては、多くの人にとって肉体的に活力を与えてくれるだけでなく、精神的にも楽しい気持ちにさせてくれるメニューとして支持されていた。この傾向は若い世代ほど高く、中でも20代前半では、「仲良くなれる」「親密度が増す」「絆が深まる」など、コミュニケーションに関わるポイントが高かったのだという。
さらに、“ホルモンヌ(?)”と呼ばれた内臓肉を好む女子の出現は、霜降り肉一辺倒の価値観を変えた。焼き肉店でも、肉食女子が赤身肉の魅力を評価するようになり、部位を細分化しそれぞれの名札を添えて出すというスタイルが定着しつつあるようだ。
“肉コン”の傾向を見ても、やはり日本人には、縄文人の血と征服者である弥生人の血が、食とコミュニケーションの取り方の両方に残っているのだろうか?鍋や焼肉を囲んで繋がりを確かめ合う血と、懐石料理に見られるシンプルに昇華した美を楽しむ血の両方が確かに内在している。
| 12.09.07