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チーター義足
昨夏の陸上世界選手権に出場した両脚が義足の男子短距離ランナー、オスカー・ピストリウス(25)が、今年開催されるロンドンオリンピックの南アフリカ代表として出場できるのか注目されている。3月に同国プレトリアで開催された大会で今季初めて400メートルを走り、五輪参加標準記録A(45秒30)を上回り、タイムでは基準を満たした。後は国際陸連の判断だ。
オスカー・ピストリウスは、先天性の身体障害により腓骨が無い状態で誕生し、生後11ヶ月の時、両足の膝から下を切断している。競技でアイスランドの義肢メーカー「オズール(Össur)」が制作した「チーター・フレックスフット(Cheetah Flex-Foot)」という炭素繊維製の競技用義肢を使用している為、両足義足のスプリンター、"ブレードランナー"(Blade Runner) の異名を持っている。
「チーター・フレックスフット(Cheetah Flex-Foot)」は、カーボンファイバー製でチーターの後肢の形状を模したものだ。その高性能な弾力性から、人間が走る時に働く力学を30%も向上させることができ、同じ速度で走る健常者よりエネルギーの消費が25%ほど少ないとされている。急速に発達してきた人工義肢の技術は、ナノテクノロジーの後押しも受けて、自然がもたらした人体の進化を超えるところまで発達してきているように見える。
着用型ロボットとして、日本のサイバーダイン社が開発した全身型スーツ「HAL」も、身体能力を増幅させることができるものだ。人間(装着者)の思い通りに作動する脳神経—筋骨格系「随意制御機能」と、ロボット的な「自律制御機能」が一体化し、人間の体の一部のように機能する外骨格型構造となっている。現在、医療福祉施設や病院を中心にレンタルされており、重作業支援、災害レスキュー支援など、様々な分野で活躍が期待されている。役所広司のCMでお馴染みの大和ハウス工業のダイワマンもこの「HAL」を装着し、日産のTV CMに使われた「デュアリス」も「HAL」をイメージさせるもので、エンターテイメントとしてのインパクトも強いものになってきている。
現代は肉体とテクノロジーの融合で、身体能力の限界を超えることが可能になってきた。「障害を持つ人」のことを、米語では“Challenged”ともいう。障害をマイナスとだけ捉えるのでなく、障害を持つゆえに挑戦するチャンスや資格を与えられたと考える前向きな言葉だ。技術の進歩が人間の限界や障害を取り払い、人間の能力を自然が意図した以上に拡大するチャンスが広がっている。
| 12.05.18
レシピの力
ゴールデンウィークに優れたマーケティング活動を顕彰する「第4回日本マーケティング大賞」(日本マーケティング協会主催)に「タニタの『社員食堂』を起点としたビジネス展開」が選ばれた。
タニタは2010年1月にレシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」を出版、続編と合わせて累計販売数が436万部を突破。『社員食堂』への注目を間髪入れずにマーケティング活動につなげたスピード感や柔軟性が、受賞の理由だ。
これに続けとばかりに、キッコーマン飲料監修の『ヘルシー!豆乳レシピ』、タカノフーズ監修の『おかめちゃんの栄養たっぷり納豆レシピ』などは、認知度の高いメーカー公認という高い信頼性から、予想以上の反響があるそうだ。他にも、『カルピス社員のとっておきレシピ』では、カルピス入りのり巻きやカルピスソースとんかつなど、想像もしなかった使い方が提案され、発売から60周年を迎えるお茶づけ海苔の永谷園が出した『永谷園のお茶づけ海苔でおもてなし』では、簡単フルコースが紹介されている。そうしたレシピ本は、こんな食べ方があったのか!という新しい発見に満ちている。
また最近躍進を見せているのが、国内最大の料理レシピサイトを運営するクックパッド(COOKPAD)株式会社だ。国内企業として唯一、米Facebookのパートナーサイトに選ばれ、株価が年初来の高値を更新した。
日本はもともと世界的評価を受ける伝統食を持ちながら、各国料理への関心の高さとその家庭内への普及度は、世界でもトップレベルの水準にある。特にここ3~4年はスマホの発達でレシピ情報源は驚く程多彩になった。家庭で調理する場合、約5割の人が10回に1回は新しい献立に挑戦しているそうだ。内食志向が高まる中、「まったく新しい感覚の食事が作れるレシピがほしい」、「外食に行ったような感じがあるといい」というような、普段とは異なる雰囲気が家庭で味わえるレシピが求められている。日本の主婦(夫)の英語力は??だが、内食の国際性、多様性は世界一だろう。これも、縄文人と弥生人に騎馬民族が混血した日本人のDNAなのだろうか?
| 12.05.18
古事記ロマン
日本最古の歴史書と言われている「古事記」が712年に編纂されてから、今年で1300年になる。神話の舞台となった宮崎、島根、兵庫県や編纂の地奈良県など古事記にゆかりのある各県は、観光客誘致につなげようと多彩なイベントを計画。関係者は「国を築いた先人の思いに触れ、元気を取り戻して」と話している。
古事記はもともと、最初に天皇を名乗ったとされる天武天皇(673年~686年)の「自分の王朝が正統である事を書いて欲しい」という思いのもとに編纂されたと言われている。したがって、要約すると“天皇はアマテラスの子孫である為、国を支配する資格を持つ”となり、天皇の存在を保証するための史書とも言える。その為、辻褄の合わない部分は“神話”という形で美化されている。古事記を編纂するにあたり、当然のことながら過去から伝わる歴史書は、すべて“焚書”された。しかし、大和朝廷の権威が届いていなかった地方や近隣諸国には、古事記よりも古い史書が存在し、それらをもって日本の古代史を読み解くことはまさにロマンだ。事実、中国大陸では後漢が滅びた220年から隋の成立する581年まで五胡十六国の戦国時代であり、この時代、西はペルシャのササーン朝から中央アジアの騎馬民族エフタルや突厥までもが中国大陸を横断し、朝鮮、日本にまで影響力を持っていた。日本はまだ天皇以前の“王”の時代であり、継体朝(507年~531年)から仏教伝来(538年)をはさんで、敏達朝(572年~585年)や聖徳太子(574年~622年)の登場など、不連続性が指摘される王朝が続く。六世紀の日本の王達は、支配者が定まらない大陸の様子からして、東アジアで日本を含む広域エリアの支配者だったと考えるのが自然だろう。しかも継体王はエフタル人、聖徳太子は西突厥人だったとも言われている。その後、日本は天武天皇、文武天皇の時代を経て、桓武天皇(781年~806年)の治世に平安京遷都(794年)を経て、独自文化を持つ安定した天皇制の国へと推移していく。
「古事記」を知れば知る程、六・七世紀までの日本は、西はペルシャから中央アジアまでをも支配した騎馬民族の末裔が「倭王」となるグローバル国家であったことが浮き彫りになってくる。日本各地の「古事記イベント」が日本人の中の騎馬民族のDNAを再び呼び起こし、若者に自らの血のルーツを知らしめるところまで踏み込むのかじっくり観察してみたい。
| 12.05.11