旨味文化遺産
昨年5月、EUに対して初めて日本の鰹節が輸出できるようになった。それまで、EUのHACCP(危害分析・重要管理点方式「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略。通称ハセップ)の規制によって、日本で作った鰹節はヨーロッパに輸出することができなかった。
現地で美味しい鰹節を作ろうとしても、ヨーロッパで獲れる鰹が鰹節に適さなかったり、工場設備への規制に適合できなかったりで、合法的な製造は難しい状況だった。そこで、築地の老舗鰹節店・和田久の三代目社長が様々な苦労を重ねた結果、ベトナムの契約工場でHACCPを取得し生産することで、イギリスを拠点にしたヨーロッパでの鰹節流通を実現させたのだ。確かに海外には数多くの日本料理(和食)を提供する店があるが、本来の味に出会えるのはまれだ。特にヨーロッパで食べる日本料理は、お世辞にもおいしいとは言えなかった。それは、EUの厳しい食品輸入規制によって、日本で作られた鰹節で和食の基本である出汁がとれなかったからということもあったのかもしれない。鰹節をはじめ、昆布や干し椎茸は和食によく使われる食材であり、旨味の素でもある。和食の料理人たちは旨味のことを、「穏やかな余韻を残す味」と表現するが、2000年アメリカで旨味の受容体が舌にあることが発見されたのを機に、世界共通の味「UMAMI」として広く認知されるようになった。しかも和食は、美味しさの三大要素と言われる甘味・油脂分・旨味成分のうち、油脂分は殆どなく、旨味成分を中心に構成されているのでカロリーが控えめな料理として、世界で注目されるようになったのだ。世界中のシェフ達が、食材の中に旨味成分の存在に気付き、それを活かすことで料理が進化することを実感し始める状況を、和食はリードしてきたと言える。
最近日本で和食を学ぶ外国人が増えているらしい。また、欧州やアジアの観光客の間でも、昆布や鰹(かつお)のだしの取り方を教える和食の体験教室が人気だそうだ。こうした世界的な和食人気の高まりを背景に、農水省はこの3月ユネスコに、「日本人の伝統的な食文化」を世界無形文化遺産に登録申請する。和食を「年中行事と密接に関係し、家族や地域の結びつきを強める社会的習慣」として定義。郷土料理の継承や再興、農産物の輸出拡大への弾みになると期待されている。ますます和食を通じて「旨味文化」を輸出し、次世代に伝えていくことになるだろう。
| 12.03.30