エデュテインメント
教育(education)と娯楽(entertainment)を合成した「エデュテインメント(Edutainment)」という造語は、楽しみながら学ぶという目的で教育市場では以前からよく使われていた言葉だ。
古くは米国のTV番組の「セサミストリート」や「プリーズタッチ博物館」が有名だ。最近では、米国で始まった児童教育施設として有名な「キッザニア」が代表的な「エデュテインメント」施設であり、米国の博物館は様々な批判を浴びながらも、参加型・体験型展示の増加により、子供だけでなく大人も、楽しみながら学べ、米国では展示が一大産業ともいえる発展を遂げてきたことは記憶に新しい。
日本へキッザニアをいち早く導入した都市デザインシステム(UDS)は、その後事業的にいろいろな苦労を重ねたが、再び「エデュテインメント」をコンセプトに、一昨年京都に元予備校の校舎を改装した「ホテルカンラ京都」を、さらに昨年、学生寮を再生したホテル&アパートメント、「ホテルアンテルーム京都」をコクヨの支援でオープンした。ホテルカンラは単なる再生ホテルではなく、京都の歴史や美への認識、体感を提案するホテルとして注目され、米旅行情報誌「コンデナスト・トラベラー(Conde Nast Traveler)」の2011年ホットリストに選出されたりしている。京都は、年間5000万人を超える観光客が訪れる巨大な、それ自体がテーマパークと言える都市だが、宿泊施設のレベルが低いことで有名な都市でもある。こうしたUDSのエデュテイメントな活動は、同じく京都の町家再生事業をこつこつ続けている、庵(IORI)等とともに、伝統文化や生活文化に根差しつつ新しいライフスタイルを創り出そうという不動産活用事業としても、主に海外から注目を集めている。
先月東京・代官山に日本最大のTSUTAYAとしてオープンした『代官山 蔦屋書店』も、事業と文化の両方を追求する施設として、日本国内よりもむしろ世界から注目されている。緑に包まれた閑静な住宅街にある同店のコンセプトは“森の中の図書館”だ。世界同時不況のど真ん中で、“プレミアエイジ”と呼ばれる団塊世代前後の客層をターゲットに、落ちついた環境の中で趣味に勤しめるような施設の構築できている。効率だけを画一的に追及するLCC、ファストファッション、ディスカウンターだけが利益を上げる中、これらの動きは世界的に貴重な胎動だ。
現代日本人の生活は、様式スタイルの欠如からくる“文化不況”とも言われている。社会における文化が著しく停滞状態に陥って、衣・食・住の調和が乱れている今、自分なりに楽しみ方の基準を模索し、楽しめる人が文化創造の中心になっていけるような「エデュテインメント(Edutainment)」な場づくりが、アジアの真の文化的リーダーになるためにも、自国の生活文化の建て直しにとっても最も重要なポイントになって行くのではないだろうか。
| 12.01.13