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江戸調味料
深刻な「節電冷え」が心配される今年の冬、「体が温まる」と数年前からブームになっている生姜がますます人気の盛り上がりを見せている。永谷園の生姜部が火付け役だが、多くの食品会社から生姜食品が続々と登場している。昔から日本各地に「生姜まつり」というのがあるように、生姜は、厄除として江戸庶民の信仰の対象にもなる生活に密接に結びついた存在だった。生姜に限らずこのところこうした江戸時代から食べられてきた食品が注目を集めている。
そのひとつが「塩麹」だ。みそやしょうゆなどの発酵に欠かせないカビの一種である「麹」は、その作用で肉や魚が軟らかくなり、素材本来のうまみを引き出す力も持っている。それに塩を加えて作られたのが「塩麹(糀)」だが、これを、大分県佐伯市の「糀屋本店」の女将が、自らを”こうじ屋ウーマン”と名乗って広めている。様々な食材をおいしくしてくれるまさに万能調味料であり、生きた菌を体内に取り込めるということでも人気を集めている。また、江戸時代中期に醤油が普及するまで一般的に使われていた調味料「煎り酒」も注目されている。料理人の間では、素材の持ち味を最大限に引き出す"秘伝の調味料"として独自に仕込んだ物が使われていたようだ。 江戸時代の古文書から復活させた、島根県益田市の「丸新醤油」の「煎り酒」は、素材を引き立てる素朴な味が人気を集めている。山形県・庄内町の老舗「ハナブサ醤油」の江戸時代から伝わる「しょうゆの実」も、このところの食べる調味料人気も手伝い万能調味料としてその売り上げを伸ばしている。
江戸時代には洗練された美意識や生活文化が形成され、今から思えば、環境にやさしい循環型社会の知恵や多くの災害を乗り越える都市再生の活力など、現代社会に求められているライフスタイルのルーツが数多くある。明治維新後のアジアでいち早く「脱亜入欧」を果たした日本への評価は、奇跡的と言われた経済発展とその後のバブル崩壊で行き詰まりを見せた。今こそ、明治以前のライフスタイルへの評価を世界的視野で行っていくべきだろう。
| 11.10.24
“i”スタイル
先日亡くなったスティーブ・ジョブズは、度々、「いい芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」というピカソの言葉を引用した。IT業界においても長いパクリの歴史があるからだ。革命的なデスクトップコンピューターだった初代「マッキントッシュ」は、ゼロックスのバロアルト研究所で生まれたコンピューター「Alto」のOSのアイデアから影響を受けた。それまでマックOSとは発想で一線を画していたマイクロソフトは、そのマックに急追されるに至って、非常に近い発想を持ったOS「ウィンドウズ’95」を発表せざるを得なかった。そして、グーグルの携帯電話向けOS「アンドロイド」は、明らかに「iPhone」のパクリ、といった具合だ。そうした中で、ジョブズ氏が創設したアップル社が他のIT企業と最も大きく異なるところは、嘗てのSONYがそうであった様に、常に革新的なハードウェア機器をベースに新たなライフスタイルを提供してきたことにある。
アップルの製品に" i "がつき始めたのは、1998年に登場したiMacからだった。そのプレゼンでジョブズはこれまでのパソコンの悪い点をあげて、「どれもダサい“Ugly!”」と言い放った。そして、新しいiMacの名前を出し、" i "を5つの単語で説明した。「Internet」、「Individual」、「Instruct」、「Inform」、「Inspire」
その後もたくさんの" i "がつく製品を生み出し、" i "には日常的に簡単にカッコよく音楽やインターネットを楽もうという思いが込められていることを、ユーザーにしっかり体感させた。そして、こうした魅力的なハードウェアを大量に売ることで、iTunesに始まるコンテンツビジネスをも成功させる構造をつくり上げたのだ。
最近のモノづくりでは、ネットワークだ、コンテンツだ、エコだとかがとかく優先され、それを製品の売りにすることが多い。従って、できあがる製品そのものが妥協の産物であるが、アップルにおいては、スティーブ・ジョブズというたった一人の人間の「ライフスタイル」の美学が貫かれており、そうした個人の「スタイル」へのこだわりが製品を通じてユーザーに強く伝わってくる。それゆえに彼の死後、アップルユーザーの間で“ジョブス・ロス”とも言うべき喪失感が広がったのかもしれない。
「モノづくり」をする企業は、「美しくなければ、道具ではない」というスティーブ・ジョブズの、ライフスタイルを様式美にまで昇華させようとした意志力を、どうせなら模倣してほしい。特に、力を持ったサムスンにとってはそれが課題だ!
| 11.10.17
日本ワイン力
今巷でじわじわと人気を広めつつある、100%日本産ブドウでつくった日本ワイン。全国各地でワインが作られており、まさにその勢力圏を広げんとしている。
かつて日本ワインの造り手は、ボルドーに負けないフルボディのワインを造りたいと頑張っていた。それが、90年代からボルドーと同じものを目指しても勝てるわけがないと悟り、自分たちの造るワインはこれでいいのだと思えるようになり、それからは格段にレベルが上がってきたと言われている。東急百貨店本店(東京・渋谷)のワイン売り場では、今年1~6月の日本産ワインの売り上げが前年同期比で22%増えたそうだ。フランスワインも好きだけど、比較して飲んでみたいと思える日本産ワインが増えてきた、と指摘するお客様が目立ってきているのだという。
山梨県・津金にあるスタッフ3名の小さなワイナリー、L'ATELIER de BEAU PAYSAGE (ラトリエ・ドゥ・ボー・ペイサージュ)は、その人気たるや絶大で、ソムリエはもちろん、料理を問わず飲食店関係者からも熱烈な支持を得ている。主宰者の岡本英史氏は90年代に、20代でゼロからワイン造りの為に自分で畑を借りて、ワイン用ぶどう品種を栽培することから始めた。最近では熱狂的なファンも増えて、毎年6月頃から売り出すワインを手に入れることは至難の業だ。こうした意欲的で小規模ながら高い品質を追求するワイナリーの開設が相次ぎ、それらが多彩な味を生み出すことが、日本ワインの競争力を高め、マーケットを創り出してきた。また、一昔前までは自己主張の強いワインがもてはやされていたが、今はむしろクリーンな味わいで、フードフレンドリーなワインが求められており、合わせる料理も日本料理も含めてヘルシーでかつ軽やかなものへと嗜好が変化してきたことが、日本ワインにとっては台頭のチャンスになっているようだ。
ワイン用の葡萄はまだまだ改良の余地はあるが、日本のフルーツとしての葡萄は、世界最高のレベルにある。日本政府は、米国とのFTA交渉で韓国に先を越された事の衝撃が、外貨を稼ぐ輸出産業にどれほどのものかを理解していないようだ。日本の米や果物、二次製品であるワインなども含めて、輸入品を迎え撃つ競争力はすでに充分にあるように思う。日本農業の潜在力は日本人の舌が衰えない限りすごい、と考えても良いのではないだろうか?FTA交渉に日本政府は何も恐れずに突入して良いのでは?
| 11.10.11
ディズニーライフ
ここ10年あまりディズニーのプリンセスラインが人気を集め、驚異的な成功を収めているそうだ。
プリンセスラインとは、ディズニー映画に登場するプリンセスだけを集めたもので、女の子たちが映画のお姫様に自身を投影できるというのが、商品のコンセプト。白雪姫(白雪姫)、シンデレラ(シンデレラ)、オーロラ(眠れる森の美女)、 アリエル(リトル・マーメイド)、 ベル(美女と野獣)、ジャスミン(アラジン)の6姫だ。いつもきれいにかわいくしていれば、ある日王子様が現れて、美しいあなたと恋に落ちてくれる・・・というディズニープリンセスからのメッセージが込められている。女の子たちはこうしたやや古風な女の子らしさを求めていることを、ディズニーが見事に読み取ったヒット商品だ。
2011年9月に、ハワイ・オアフ島に新しく「アウラニ・ディズニー・リゾート&スパ・コオリナ」(http://resorts.disney.go.com/aulani-hawaii-resort/)が誕生した。ここは、タイムシェアコンドミニアムを中核に、美しい自然環境に溶け込んだメインプールや火山岩の間を縫うように配置されたウォータースライダーやボディスライダーのあるウオーターパークと、ボディーケアも受けられるスパを組み合わせた、三世代で楽しめるライフスタイル型施設だ。これまでディズニーランドに併設されたタイムシェアはあるが、テーマパークを離れたディズニータイムシェアリゾートは初めてという。LAのタイムシェアが「1930年代のカリフォルニア」をテーマにしていたのに対し、オワフでは「本当のハワイ」をコンセプトに、マオリ族の文化をベースにハワイの伝統を強く意識した中に、ディズニーテイストをさりげなく加味してデザインされた落ち着きのある雰囲気で、ディズニーを楽しみながら、自然にマオリ族の文化を知ることができる仕掛けとなっている。ディズニーに対して軽薄なイメージを持っている大人達の思いをも見事に裏切っている。またタイムシェアのインテリアやビジネスモデルも、先行するヒルトン・グランド・バケーションクラブを徹底的に研究したグローバルスタンダードに開発されているため、子供たちはもちろんのこと、既にリタイアメントを迎えようとするディズニー第一世代のニーズをもしっかりと抑えている。
ディズニーは、ミッキーパワーの下にエンターテイメント産業とライフスタイル産業と結び付ける手法であらゆる事業を展開し、最も想像力にすぐれていた創業者でさえ想像できないほどに拡大してきている。
ディズニーを単なる「おとぎの国」ととらえるのはもはや時代遅れで、今や子供を超えて全世代対応の「ライフスタイル」そのものになっている事を再認識しなければならないようだ。
| 11.10.03